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災いの話

災いの話

鐘つき正太

大多喜町の昔ばなし

むかしむかし、今の大多喜中学校あたりに「鐘(かね)つき堂(どう)」と呼ばれるお寺があった。四十すぎの「鐘(かね)つき正太」(しようた)と呼ばれる男が働いていた。

1

稲が黄金色(こがねいろ)に実った、秋のはじめであった。正太いつものように鐘つき堂にのぼり、明六(あけむ)つの鐘(かね)(午前六時頃)をついた。
ゴーン ゴーン ゴーン
雨の城下に響(ひび)き渡った。・・・その日、雨は一日中降りつづいた。
暮六(くれむ)つの鐘(かね)(午後六時頃)をつくため、正太は鐘つき堂に登った。茶色ににごった夷隅川(いすみがわ)が目に入った
ゴーン ゴーン ゴーン

雨音に消されぬよう、正太は強くついた。

2

夜になると雨は風をさそい、ますます激しく降った。

ザザー ザザー
ピュウー ピュウー
ゴー ゴー
正太は鐘つき堂に登って、夷隅川を見た。雨風(あめかぜ)にまじって、川のあばれる音が聞こえてきた。水が堤防(ていぼう)をこえて城下にあふれてきそうだ。
(あ、あぶねえ。堤防をこえて水が・・・避難(ひなん)しなければ)
とっさに正太は鐘を打ち鳴らした。
ゴーン ゴーン ゴーン
雨風の音にまじりながらも、城下に響いた。
(人々はどうしたんだ、こんな時刻に)と思い起きた。家々に明かりが灯った。
「川があふれてくるぞ。はやく逃げろ。はやく。堤防が破れる。はやく逃げろ。はやく」
正太は、町中を叫びながら走った。
町の人たちは、高台にあるお城に向かって避難した。殿様はお城の門を開いて、町中の人を城内に入れてやった。
逃げ終わってからまもなくだ。夷隅川の堤防が破れ、城下に水があふれた。
「お、おそろしい。正太が知らせてくれなかったら今ごろは・・・・正太、助かったぞ・・・」
夷隅川の暴れるようすを見ると、みな口々に正太にお礼をいった。

3

以来、この鐘つき堂は時を告げるだけでなく、災害のときにも鳴らされるようになった。しかし、時計が普及すると、鐘つき堂は取り壊された。今は、その面影はない。
大多喜中学校のあたりを、「鐘つき堂」とか「無縁堂(むえんどう)」と呼び、昔この地にお堂があったことを今に伝えている。
おしまい
(斉藤弥四郎 著より)

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つか坊と姉ちゃん