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タケノコのお礼

大多喜町の昔ばなし

1

むかしむかし、大多喜に寅吉(とらきち)という男が住んでいた。一人暮らしなので近所の人が
「アユがとれたからもってきた」
「初物(はつもの)のイモだ。食べてくれ」
と何かと世話をやいてくれた。
ある日、親戚(しんせき)の者がやって来た。
「寅吉や、おまえの悪いうわさがたっているぞ」
「いったい、どんなうわさかな」
「ようく聞けよ。おまえさんは、もらうだけでお返しをしないといううわさだ」

2

寅吉は考えた。(町に出て饅頭(まんじゅう)か手ぬぐいでも買ってこようか)
そうこう考えているうちに、お返しのことをすっかり忘れてしまった。半年が過ぎ、春になった。
親戚(しんせき)がまたたずねてきた。
「寅吉、まだお返しをしていないだろう。また、うわさがたっているぞ」
「そうだ。すっかり忘れていた」
「ほんとうに、しょうがない奴(やつ)だ」
「饅頭にしようか。手ぬぐいにしようか・・・おれなりに考えたよ。でも、忙しくてなかなか町に買いにいけないんだ」
「なにも、饅頭や手ぬぐいでなくていいんだ」
「じゃあ、どんなお返しを・・・」
「そうだ。今はタケノコの季節だ。タケノコでも持って行けばいいんだよ」

「タケノコでいいのかい」

「そうだ。タケノコでいい」

3

翌日、寅吉はタケノコを三本掘ってお返しに出かけた。
「いつもお世話になっています。これ、めしあがってください」
とタケノコをさし出した。
「おお、初物だ。ありがたい、ありがたい。寅吉は竹林をよく手入れしているな。いいタケノコだこと」
といったので寅吉は
「いやいや、それは竹山のではなくて、裏の便所のそばにはえていたタケノコです。」
といった。すると
「そうそう、わたしのところにもタケノコはあった。だからいらないよ」

寅吉はしかたなく、三本のタケノコを持って次の家にお返しに行った。

「タケノコか。いまが旬(しゅん)だね」
どの家もはじめは喜んでくれた。しかし、
「便所のそばにはえていたタケノコです」
というと
「わたしの家にもタケノコはあった。けっこうだ、持って帰ってくれ」
という。
こんな具合に寅吉はタケノコ三本を持って、近所じゅうをお礼に歩いたと。
おしまい
(斉藤弥四郎 著より)

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