• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

不思議な話

不思議な話

首切り地蔵

大多喜町の昔ばなし

1
むかし上瀑(かみたき)地区に、「首切(くびき)り地蔵(じぞう)」と呼ばれる首のない地蔵があった。この地蔵にはこんな話が伝わっている。
むかし、弥助(やすけ)という百姓が妻と太一(たいち)という十二歳になる息子と、幸せに暮らしていた。

2

夷隅神社(いすみじんじゃ)は春の祭礼でにぎわっていた。野良仕事(のらしごと)を早めにきりあげた父母につれられ、太一は祭に出かけた。太一はうれしくて境内(けいだい)を走りまわっていた。
「痛いよ、痛いよ」
火がついたように侍(さむらい)の子どもが泣きだした。

 

「どうされました。若・・・」

 

「あいつじゃ、あの卑(いや)しい身なりの者がぶつかってきたのじゃ」

と近くにいた太一を指さした。

弥助と妻はその場に土下座して、額(ひたい)を地面にこすりつけてわびた。しかし太一は
「ぶつかったのは俺じゃあねえ」
といった。
「このように、せがれではないと申しております」
「なに、わが子をかばうのか」
「若様がこの子にやられたといっているではないか」
「あやまれ。侍(さむらい)に無礼(ぶれい)をはたらいたものは打ち首だぞ」
打ち首ということばに弥助も
「謝(あやま)れ。土下座してあやまれ」
と太一をうながした。
「おれじゃねえ。ぶつかってねえし、ケガをさせてもいねえ」
と強くいった。
「打ち首になってもいいのか」
弥助はふるえながら太一の頭をおさえた。しかし太一は
「あやまるもんか。おれは何も悪いことしてねえ」
と聞く耳を持たなかった。
侍は太一の首根っこをつかまえて、大勢(おおぜい)の見ている前で
「こいつは若様にさからった。ケガまでさせているのにあやまろうとしない。打ち首にする」
「助けてください。命だけは」
と哀願(あいがん)する父母に
「おれは悪くない。首を切るなら切れ」
と太一はその場に正座(せいざ)した。
次の瞬間、太一の首はふっとんだ。
弥助と妻は嘆(なげ)き悲(かな)しんだ。
しかし、侍に逆らうことなどできはしない。
二人は涙ながらに上瀑(かみたき)の家に帰って行った。途中、地蔵さんの所にさしかかった。 太一の冥福(めいふく)を祈ろうと地蔵さんに手を合わせた。ところがなんだか地蔵さんの背が低い。目をこらしてみると、鋭い刃物で首が切りとられている。 いったいだれがこんないたずらをしたのだと思い、首をさがした。すると近くに落ちていた。弥助は首をひろって、地蔵さんの肩にのせてやった。 それから妻とふたりで手を合わせ、太一の冥福(めいふく)を祈った。

3

二人は息子を亡くした悲しみにむせび泣きながら、家に帰った。すると
「お帰りなさい」

と出迎える者がいた。首を切られて死んだと思っていた太一だ。
「お地蔵さまが太一の身代わりになってくださったのだ」
と三人は喜んだ。
それ以来、地蔵さんは「首切(くびき)り地蔵(じぞう)」とか、「身代(みが)わり地蔵(じぞう)」と呼ばれ、人々の信仰を集めるようになった。
しかし、いつのころか地蔵の姿は消えてしまった。ただ、むかし上瀑に首のない地蔵があったことがいい伝えられている。

おしまい
(斉藤弥四郎 著より)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん