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地名の話

地名の話

村正の池

大多喜町の昔ばなし


1
むかし、むかし、正宗(まさむね)という刀をつくる名匠(めいしょう)がいました。年を重ねるにつれて、自分のつくった刀で大勢の人が命をなくしたことを悔いるようになりました。 そこで諸国の寺や神社をめぐって、死んだ人の冥福(めいふく)を祈りました。
ある年のことです。笠森観音(かさもりかんのん)に参拝し、誕生寺(たんじょうじ)に行く途中、大多喜の城下に宿をとりました。
夕食も終えて、風呂にはいった時でした。
テーン カーン テーン カーン
刀をうつ音が聞こえてきました。
「なかなかやりおるわい。しかしあいもかわらずすさんでおるな」とつぶやきました。

2
あくる朝、正宗は宿の主人にいいました。
「昨夜、この近くで刀をうっていた刀鍛冶(かたなかじ)に伝えてくだされ。鎚(つち)の入れ方が荒すぎる。ことに止めの鎚一本は荒すぎる。内側三寸のところにひびが入っている。刀うちは心でうたなくてはならぬとな」
「は、はい・・・」
宿の主人は、老人を送りだすと刀かじの若者の所に行き、老人のことばを伝えました。若者は怒りでワナワナと体をふるわせました。
「なに、旅のおいぼれにおれの腕がわかるもんか。ようし、昨夜うったこの刀でためし切りをしてやろう」
若者は昨夜つくった刀を持って、旅の老人を追いかけました。

3
ちょうど円照寺の入り口にさしかかった時でした。旅の老人に
「きさまか、おれの刀うちがまずいといったのは。これが昨夜うった刀だ。受けてみろ」
叫びながら切りかかりました。
正宗はふりかえると、鉄のつえで刀を受け止めました。するとカチンという音とともに、まさに内側三寸で折れ、そばの池に落ちました。
「村正、まだわからぬか。心がすさんでおるのが」
旅の老人は、あみがさをとりながらいいました。
「お師匠さまではございませんか。お許しを・・・」
「人の忠告を素直にきけぬか。このおろかものめ」
村正は正宗の一番弟子でした。しかし、自分の腕のよいのにおぼれ、生活がみだれ、破門されたのです。
村正は自分の未熟さを恥じ、涙がほほをつたいました。
「口惜(くや)しいか。口惜しければ、心をあらため刀をうつのじゃ。心でうつのじゃ。心でじゃ・・・」
そういい残すと、正宗は誕生寺にむかって、何事もなかったように歩いて行きました。
このことがあってから、この池は月夜の晩にはキラキラキラキラ光ったそうです。
後に「村正の池」とよばれるようになりました。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)




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