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不思議な話

不思議な話

日蓮さんと大黒堂

大多喜町の昔ばなし

大多喜の粟又に「大黒堂」という屋号の家があります。この家には、あの名僧、日蓮さんがきざんだといわれている大黒様があります。この大黒様にはこんな話がかたりつたえられています。

1
むかし、むかし、今から約七百年もむかしのことです。日蓮は小湊の誕生寺で仏教の教えをひろめていました。しかし、そのころ日蓮の教えに反対する武士たちがいました。ちょうど、弟子といっしょに布教から帰るところでした。鴨川の東条、小松原というところで、日蓮の教えに反対する武士たちにかこまれてしまいました。
「そこの坊主、まて」
危険をかんじた日蓮たちはこの人数では勝ちめはないとかんじ、急いで走りだしました。しかし、すぐにおいつかれ、とりかこまれてしまいました。
「日蓮さま、おにげくだされ。ここは私たちが」
「さあ、急いでおにげくだされ」
弟子の鏡忍房と工藤吉隆はさけび、腰の刀をぬいて、ていこうしました。相手は十数人、こちらは三人。とても勝てるみこみなどありません。とにかく、日蓮さんににげてもらおうと必死でした。日蓮さんは、小松原をにげ、やっとのことで清澄の山中ににげました。

2
命からがらにげた日蓮さんは、山の中をさまよいました。追っ手がきましたが、みつからないように木のほこらにかくれじっとしていました。
「日蓮坊主、でてこい」
「このくそ坊主、どこにかくれた」
ば声をあびせながらさがしましたが、日がくれてしまい みつけることができませんでした。山ににげた日蓮さんは道にまよい、きずつきながら森の中をさまよっていました。むちゅうになってにげたので、足や手からは血がでていました。口にできるものは水とわずかな木のみだけです。森ににげて三日めのことでした。ふらふらしながら、木々をかきわけて歩いていますと一人の猟師にであいました。
「坊さん、坊さん。どうなされた」
「は、はい。実は・・・」
わけを話すと
「それなら、この山のうらがわにわしの家があります。そまつな家だがひとまずわが家にきてくだされ」

3
おそろしさと空腹でつかれきった日蓮さんは、やっとのことで奥養老の粟又にたどりつきました。猟師の家はそまつな家であったが、きずついた日蓮さんを手あつく看病し、もてなしました。そのかいあって、三十日ほどすると、きずもすっかりよくなりました。
そんなある日、日蓮さんはまくらにしていた木をけずりはじめました。家族の者はいったいなにができあがるのだろうかとみていましたが、やがて大黒さまができあがりました。
「長いことごめいわくをかけ、すみません。なにもお礼はできぬが、これをうけっとってくだされ。明日おいとまいたします」
といって、小さな大黒さまを手わたしました。
そして、つぎの日、猟師は朝早く家の者は坊さんに持たせるにぎりめしにする米もなかったので、となりの家に米をかりに行きました。しかし、その間に坊さんは旅立ってしまいました。猟師は,米をかりてかえってくると、急いで飯をたき、おにぎりをつくり、新しいわらじを持って坊さんの後をおいかけましたが、なかなか追いつけませんでした。やっと追いついた所は富津岬の浜辺でした。もう、日は西にかたむき今にも海にしずもうとしていました。
「すまないのう。長いことおせわになったのに、にぎり飯まで持ってきてくださって・・・はらぺこなのでいただきます」
「うまい、うまい。ほんとうにうまい。ありがとうございました」
「なになに、こまった時はおたがいさま」
「たっしゃでお過ごしください」
「お坊さんもな、気をつけて旅をしてくだされ・・・」
「それにしても、おむすびのうまいこと・・・」
あまり夢中になってたべていたので、船の出るのもわすれていました。船ははるか沖に行っているではありませんか。
おにぎりを食べおわると、新しいわらじにはきかえ、衣のすそをたくしあげ海にはいってゆきました。すると、ふしぎなことに、たちまち潮がひいて船のところまで道ができるではありませんか。それで、船にのることができました。日蓮さんが船にのると、今度は潮がみちてきて帆をはった船は鎌倉をめざしてすすんで行きました。その船には夕日があたって、それはそれは美しく、まるで後光がさしているようでした。
この坊さんが、日蓮さんであることをしったのはその後のことです。それ以来、粟又の人たちはこの猟師の家を「大黒堂」とよぶようになりました。いまでも「大黒堂」とよばれ、木彫りの大黒さまは加曾利家に大事に保存されています。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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