• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

あたたかい話

あたたかい話

龍になった赤鬼

大多喜町の昔ばなし

1
むかし むかし おおたきの 村はずれに 太郎という男の子が 住んでいました。
太郎はお母さんと お父さんを 亡くして おはな姉ちゃんとふたりっきりで 住んでいました。
ある日のことでした。
ふたりで水くみに行って 帰ろうとしたとき
「ひゅうー ぽちゃん」
と音がして 空から、小さな かたまりが落ちてきました。
「ねえちゃん あれ 動いているよ」
「ほんとだ 助けてあげよう」
いったい なんだと思いますか。
それは 雲の かいだんを ふみはずして空から 落ちてきた かわいい 赤おにのこどもだったのです。
ふたりは すぐに 仲良しに なりました。おはな姉ちゃんも まるで赤おにのお母さんのように やさしくめんどうを みてやりました。
村の子どもたちも 赤おにが 大好きになり 村の人気者になりました。

2
そうして 半年もすると赤おには りっぱな つのもはえて一人前の おにらしくなりました。
「おはな姉ちゃん 赤おに君に 名前がないのは かわいそうだから いい 名前を付けてあげてよ」
「そうね。強くて りっぱになったから 龍介という名前は どうかしら」
「龍介 いいなあ かっこよくて ぼく 気に入ったよ ありがとう ぼくは 今日から 龍介だ」
大喜びしている 龍介に おはな姉ちゃんは ぴかぴか光る 一本の黄色の ひもを さしだしました。
「これ 龍介に あげるわ」
「なあに これ」
「わたしの お母さんの おびで作った つのかざりよ」
「つのかざり」
「ほら こうやって つのにまくのよ」
「ありがとう たいせつにするよ」
からだは 大きくなっても 心は やさしい龍介です。

3
ある年の秋 大多喜の村が ひでり続きになりました。雨がちっともふらないので 田んぼも 畑も ひびわれて 作物は みんな かれてしまいました。
「姉ちゃん たきの水もかれて のみ水もなくなってきたよ」
「こまったねえ」
「なんとか 雨を ふらせるほうほうはないかなあ」
「そうだ ぼくは たしか 天から落ちてきたはずだ 天にもどって 神様にたのんでみよう」
それからというもの 龍介は 自分のへやに とじこもって 朝から ばんまで天にもどるには どうしたらいいか 考え込んでおりました。

4
そして 三日目の朝
「そうだ 村の凧(たこ)作りの じょうずな源じいさんに たのんでみよう」
「源じいさん 天までとどく でっかい 凧を作ってください」
「ああ いいとも。雨をふらせてくれるなら よろこんで 作るよ」
「わあい すごい」
「龍介 ようく おねがいしてきておくれ」
じいさんの手の中の糸は つぎつぎとくりだされていきました。
「うまくいったな」
このときです。
「どすん」
「だいじょうぶか?」
「ごめんね しっぱいしちゃって」
もう少しというところで 糸がたりなくなってしまったのです。
「何とか 天に返すほうほうは ないかなあ」みんなは あつまって 考えました。

5
「ぼくが 龍介さんを のせて飛んで見ましょう」
「そんなの むりだよ おまえみたいに小さな からだじゃ」
「よわむし ぴーひょろに できるわけがないよ」
「そりゃあ 一人じゃむりだよ でも友だちと 力を合わせて 飛べば だいじょうぶだよ」
友だちを さしずしている ぴーひょろは いつもの よわむし とんびとは まったく ちがって見えました。
とんびの仲間は 龍介をのせたかごをくわえて ばたばたばたと空高くのぼっていきました。
「ぴーひょろたち なかなか やるなあ」
と そのときです。
みしみし どすんと音がして 龍介がまっさかさまに 落ちてきました。
「ごめんね。ぼくが 重すぎたんだよ」
龍介は こしをうって おきあがることもできなくなってしまいました。

6
ある日のこと 空から 大きな 声が聞こえてきました。
「大多喜村の 村人よ ようく 聞くがいい。雨をふらしてほしければおはなという 娘を かみなり様の  よめにしろ。三日後の朝 むかえにいこう」
「いやだ いやだ。おはな姉ちゃんが かみなり様のところに 行っちゃうなんていやだ」
「たしかに 雨はほしい それでも おはなちゃんを 雷にやることは できない」
「どうしたらいいんだろう あんなにやさしく育ててくれた 二人を はなればなれにさせるわけにはいかない」
そのとき龍介の目は 一本の 大きな杉の木にすいつけられていました。それは この村を開いた 神様が植えたと 伝えられている大杉でした。
「そうだ この杉の木に 登れば かみなり様のところに行けるぞ」
龍介は 夜になるのを 待ちました。登り始めて 二日目の朝
「やっと天についた」
「おまえはだれだ」
「天で生まれた 鬼の龍介だ」
「そんなことはきいたことがない」
「大多喜村に 雨をふらせてください おはな姉ちゃんを連れて行かないでください」
「なに おまえみたいに 人間のみかたをする鬼なんか 天にすむしかくはない。そんなに雨が ふらしたければ 龍にでもなって 池の中に住むがいい」

7
龍介がいなくなった 次の日の朝大多喜村に雨がふりました。雨は何日もふり続きました。草も木も 動物たちも大喜びではしゃぎました。
そんなある日 一匹の りゅうがからだをくねらせながら空を泳いできました。そして 村いっぱいに 大きく 低くゆっくりひとまわりしました。まるで おじぎをしているようでした。
「あっ、つのかざりだ。黄色のつのかざりだ」
「龍介だ 龍介が雨を ふらせてくれたんだ」
「ありがとう 龍介」
それからというもの 龍は大きな たきつぼに住み 村の守り神になったということです。

おしまい
(齊藤 弥四郎 編纂)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん