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怖い話

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円照寺の白へび

大多喜町の昔ばなし

大多喜の田丁に 円照寺という寺があります。この寺に こんなお話が語りつたえられいます。

1
むかし、むかしのことです。今から ざっと六百年ほど前のことです。円照寺のおしょうさんは、中国に渡って勉強されました。五年の勉強期間がおわると、中国の本や筆・・・などめずらしいおみやげをたくさん持って帰りました。
そのとき、日本にはめずらしい 白いヘビも みやげといっしょにもってきました。白くて小さい、かわいらしいヘビでした。 小さくて かわいらしいので、いつも手の上にはわせほおずりして、かわいがっていました。
おしょうさんがお経をあげるときには、ふところにいれたりたもとにいれたりして いつもおしょうさんのそばにおきました。
ところが、月日とともに、ヘビは大きくなって やがて、ふところからもたもとからも はみだすほどに成長しました。やがて、おしょうさんのそばにおくことができなくなり、庭の池にはなしました。
成長することの早いことといったらありません。一年がすぎると、池からもはみでるようになって、おしょうさんもこまってしまいました。それでおしょうさんは
「すまんが、おまえはあんまり大きくなりすぎて、庭の池にもすめなくなってしまった。おまえのすむ池を広くするから、一年ばかり、西畑の“田代の滝“にかくれていてくれねえか」
と、いいました。
「そうですか、私のすむ池をつくってくださるか。それなら、しかたがねえなあ」
と、いうといつのまにか円照寺からすがたがをけしました。

2
おしょうさんも、白ヘビのすむ池を大きくしてやらなければと思っていましたが、いつの間にか、わすれていました。白ヘビとの約束から一年がすぎました。
春風に桜のはなびらが散る朝でした。いつものように、朝のおつとめに入るときでした。
「きゃー」
庭から 小僧のひめいがします。なにごとかと思って、いそいで庭にとびだしました。
「どうした。どうした」
「た、た、たいへんです。ヘ、ヘビが」
小僧のゆびさすほうをみると、大きな白いヘビが 池をだくようにとぐろをまいているではありませんか。白ヘビはおしょうさんと目があうと、にこっと わらい、赤いしたをペロペロさせています。おもわず、おしょうさんも背筋がぞくぞくしてきました。しかし、平気なかおをして
「おう、しばらくだね。よくきたな。すまぬが、このとおり池をまだ大きくしてねえだ。すまぬがもう一年まってくれねえか」
と、いうと
「まだですか。あと一年ですか。ほんとにあと一年ですね」
「そんなにうたがうなら 証文でもかくか」
おしょうさんは板切れに
「一年後には池を大きくしておくから 帰ってきてくだされ」
と、すみで書きました。へびは証文を首にぶらさげて 田代の滝にかえってゆきました。

3
あっという間にまた一年がすぎ、さくらのさく春になりました。 白ヘビと約束して 一年がすぎた朝のことでした。いつものように、朝のおつとめに 本堂に行こうとしたときでした。庭のさくらの花が 今をさかりにさきほこっていました。
「きれいじゃのう」
一人ごとをいいながら ろうかをわたっていきました。さくらの下に 大きなヘビがいるではありませんか。大きいこと大きいこと。さくらの木の太さほどになっていました。首には一年前にかけた木ふだをぶらさげています。
「一年後には池を大きくしておくから、帰ってきてくだされ」
と、色はうすくなっていましたが、木ふだの文字がはっきりとよめます。
「しまった。もう一年がすぎてしまったか」
と、おもいましたが、何を思われたのか、おしょうさんはひきかえされて筆をもってきました。そうして、大きくなったヘビをみると おそるおそる近づき 木ふだの一にたての線を入れました。そしていいました。
「よくきたね。げんきだったかね」
と、たずねました。ヘビは
「げんきでした。約束の一年がすぎたので帰ってきました。池はできあがっていますか」
「なに、一年のやくそく。とんでもない。約束は十年だよ」
「えっつ十年」
「そうじゃ。ここのふだに書いてあるじゃないか」
おしょうさんの指さすふだをみると確かに十という字が書いてあります。
「あれ、十年ですね。おかしいなあ」
ヘビは おしょうさんにだまされたとも気づかず首をかしげながら、また田代の滝に かえってゆきました。

4
九年があっとう間にすぎました。いよいよ約束の期限が明日という日。明日の朝がまちきれずに おしょうさんが寝ている床にやってきました。おしょうさんがねていると、顔に冷たいものがあたります。手ではらいのけようとしましたが、はらいのけようとした手にも 冷たいものがふれました。ねぼけまなこをあけると、あんどんの灯をともしました。おどろいたのなんのといったらありません。とてつもない大きな化物がいるではありませんか。
あの大きな白ヘビです。ヘビのからだは、へやをぬけて外にでています。おおきことといったらありません。くびには きゅうくつそうに小さな木ふだをつけています。
「おしょうさん、約束の十年がすぎたので帰ってきました。池は広げてくださいましたか」
と、いうではありませんか。おしょうさんは、あわてました。しかし、おちついておちついて、と自分にいいきかせおちついたふりをして、あんどんのすすをちょいと指につけました。そして ふだの十の字の上にちょいとノのの字をかきたしました。そうして、ゆっくりといいました。
「よう見るがいい。十年後でなく 千年後とかいてあるではないか。ほれ見ろ」
と、ふだを指さしました。ふだをみると 十と思っていた字は確かに千という字です。
「おかしいな。確か十年と書いてあったはずなのに、いつのまにか千年になっている・・」
ぶつぶついいながら、おこって寺を出てゆきました。

5
その後白い大蛇にあちこちで出会ったといううわさが出て、おおさわぎになりました。それでヘビは美しい娘にばけて、あちらこちらを移動するようになりました。
ある日のことでした。田代の村を牛にのった美しい娘がとおりました。それを見たこどもたちは
「あれえ、女が牛にのってる」
「女が牛にのったりして、ばか女だ」
「やーい、やーい。ばか女」
「やーい、やーい。ばか女」
といって、石を投げたり、ぼうきれなどもって追っかけました。ヘビはがまんしていましたが、ついにがまんできなくなり
「このやんどん。からかったな。こうしてやるわ」
というと、こどもを道ばたにほうりつけて、石にしてしまいました。
この石は今も田代に残っています。石はこどもの化身なので、石にきずをつけると、血が今も出てくるそうです。

6
その後、白ヘビは田代の滝にすがたをかくしておとなしくしていました。
そんなある日のことです。関平内というさむらいが、犬をつれて田代に狩りにきました。ちょうど昼どきでした。“田代の滝“の近くで昼食をとりました。腹がいっぱいになると、あたたかさにさそわれて、大木の根元でやがて、うとうととねむりはじめました。やがて、すっかり ねこんでしまいました。
いきなり、犬が
ワンワンワンワン
ウオー、
ワンワンワンワン
ウオー
ワンワンワン
くるったように なきだしました。
「うるさい。静かにせい」
と、何度いってもなきつづけます。いつもなら主人のいうことをよくきく犬なのに、いっこうになきやみません。なきやむどころか、ますます大声でなきます。平内は
「うるさい」
と怒鳴ると刀をぬき、ほえる愛犬の首をきってしまいました。犬の首は空にまいあがったまま落ちてきません。ふしぎに思った平内が上をむくと、頭の上には犬の首が大蛇にかみついているではありませんか。おどろいた平内は大蛇の首をえいっと、切り落とし、大蛇をたいじしました。
「すまないことをしてしまった。ゆるしてくれ。おまえのおかげでわしは命をたすけられた」
と、なげきかなしみましたが、犬の命はもどってきません。せめてもの供養にと、犬の塚をきずいてやりました。大蛇の頭はあまりにおおきかったので平内は持ち帰ってみんなにみせました。
この大蛇の頭は 今も西畑の三条地区の君塚さんという家にあります。毎年、八月七日には虫ぼしにされます。また、その日にしか見てはいけないそうです。その日以外にみると 悪い病にかかるといわれています。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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