1
むかし、むかしのことだ。勝浦の赤羽に住んでいた豪族、関平内が、愛犬アカをつれて、イノシシやキジを追い求め山に分け入った。しばらく山の中を歩いていたが、その日にかぎって獲物が見つからない。平内はどんどん、山の中に入って行った。気がつくと、大多喜の田代滝まで来ていた。歩き疲れた平内は滝壺の水面に顔を近づけるとゴクゴク、ゴクゴク・・・
水を飲んだ。愛犬アカも荒い息を
ハアー ハアー させながら飲んだ。
「ああ、疲れた。少し早いが昼にするか」
アカに話しかけながら荷物をおろした。おむすびの包みを取り出すと
「ほら、食べろ」
とアカの前に置いた。そうして、自分もおにぎりをほおばった。
昼飯が終わると、近くの松の大木によりかかった。アカも主人平内のそばに寄りそって寝そべった。春のあたたかい日ざしがふりそそいでいた。やがて、平内は気持ちよさそうに寝入った。
アカも時々目を開けるが、すぐに閉じる。平内もアカも夢の世界に入っていた。
2
突然
ウオーン、ウオーン
とアカが吠えたてた。しかし平内は目を閉じたまま、まだ夢の中だ。アカの体をさすって落ち着かせようとした。それでも
ウオーン、ウオーン
と吠えたてる。
「うるさい。静かにしろ」
平内は目を閉じて、アカを制した。しかしアカは
ウオー ウオー
さらに大きな声で吠える。
そして今度は
ウー ウー
唸りながら平内の着物の袖をくわえ、ひっぱりはじめた。
「なにをする。放せ、放せ・・・」
さすがの平内も怒鳴った。しかしアカは放すどころか袖がちぎれんばかりに引っ張った。平内がやっと立ち上がると、平内の袖をはなした。でも、
ウオー ウオー
とますます大声で吠える。
平内は今までにないアカのようすに腹を立て
「うるさいといったら、うるさい。きさま、主人のいうことが聞けないのか」
と言うが早いか、腰の刀をぬいた。刀はアカ
の首をとらえた。次の瞬間、アカの首は空に舞い上がり、落ちてこない。不思議に思って上を見上げると、犬の頭が大蛇にくらいついているではありませんか。大蛇は苦しもがきながら丸太のような胴体をくねらせながら平内に近づき、赤い舌をペロペロさせている。
平内は、エイッという声とともに大蛇の首を切り落とした。
「すまなかった。私を助けようとしたおまえを殺してしまった。許してくれ。かんべんしてくれ」
泣き続けた。
3
この大蛇の頭の骨は大多喜三条の君塚家に家宝として大事に保管されています。毎年八月七日に虫干しされ、その時に見ることができます。この八月七日以外に見ると悪い病にかかるとも言われています。また、関平内が愛用した弓と矢が法花の龍寺に今も大切に保管されています。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)