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あたたかい話

あたたかい話

雷ばあさん

いすみ市の昔ばなし

1
むかしむかし となり村の源助(げんすけ)どんの家に、アキという若い娘(むすめ)さんが嫁(よめ)に行くことになった。
嫁のしたくをしたアキは嫁(とつ)ぎ先の源助どんの家にむかった。途中、茶屋で休んでいると茶屋の主人が
「嫁さんに行かれるのかね」
と話しかけてきた。アキは
「はい。源助どんのせがれのところに」
と、ニコニコしながらこたえました。すると茶屋の主人は
「おお、源助どんの家か。そりゃあよかった。」
「よかったですか」
アキはニッコリとほほえんだ。
「よかったとも、なんせ、ばあさんがカミナリだからな」
「カミナリですか。雷?」
「ああ、源助どんのばあさんは雷だ。あんたもすぐにばあさんのように雷嫁さんになるさ。心配するな。良いところに決めた。よかった、よかった」
とさかんに主人は喜んだ。するとアキは、
「わたしは雷嫁さんになんかなりません」
と怒って、茶代をはらうと荷物を背負って歩きはじめた。

2
源助どんのばあさんが雷と聞いて、アキはすっかり暗い気持ちになってしまった。しかし、そうかといって、今さら実家にもどるわけにはいかない。重い足取りで源助さんの家にむかった。
ちょうど、村の入口のお地蔵さんのところにさしかかった。陽は西の山にかかっていた。畑仕事をしていたお百姓さんが
「嫁さんに行かれるのかね」
と話しかけてきた。、アキは
「は、はい。源助どんのせがれと結婚することになって、これから源助どんの家にいくのです」
と重い口調でこたえました。すると百姓さんは
「ほう、源助どんの家か。そりゃあよかった」
「よかったですか」
「よかったとも、なんせ、ばあさんが雷だからな」
「やっぱり、ばあさんは雷ですか。」
「ああ、源助どんのばあさんは雷だ。あんたもあのばあさんにきたえてもらえば、すぐに雷嫁(かみなりよめ)さんになるさ。良いところに嫁いだ。よかった、よかった」
とさかんに百姓は喜んだ。すると、アキさんは、
「わたしは雷嫁さんになんかなりません」
とおこって荷物を背負って歩きはじめた。おこるアキさんを見て百姓さんは首をかしげて見送った。

3
(嫁ぎ先のばあさんが雷だという。本当に嫁がつとまるだろうか)、アキはだんだん不安になってきた。失敗でもしたら大声でしかられる自分の哀れな姿を想像しながら、源助どんの家に行った。
源助どんの家に着くと、気になっていた雷ばあさんが出迎えた。しかし、おだやかな顔、ていねいなことばづかい、ものごしのおだやかさにひょうしぬけした。でも、(人は外見だけではわからない)、いつ雷が落ちるだろうとビクビクしていた。

4
出されたお茶を飲もうとしたときだ、手がふるえ茶碗を落としてしまった。運の悪いことに茶碗まで割ってしまった。アキは
「すみません、すみません。どうかお許しを。わざとやったのではありません」
と、頭を床板につけてわびた。ばあさんは
「いいってこと。だれにもまちがいはあるものです。それよりけがはありませんでしたかね」
と布巾を手渡され、優しい声をかけられた。
その後も、いつ大声でしかられるか、ビクビクしつづけた。失敗をしてはいけない、怒られてはいけないと思えば思うほど、アキは失敗をくりかえした。しかし、ばあさんはそのたびに
「失敗はだれもがするもの。失敗しても天と地がひっくりかえるわけじゃない。気にしない、気にしない」
と少しも怒るようすがありません。

5
半年が過ぎ、一年が過ぎた。アキは、ばあさんと朝早くから夜おそくまで畑で働いた。雨の日も風の日も、照りつける夏の日も。しかし、お姑は雷ばあさんどころかおだやかな優しいばあさんだ。しかし、近所の者が集まると
「アキさんは雷ばあさんに仕え、たいへんだね。身体(からだ)をこわすなよ」
とアキに同情したことばをかけた。
この日も村の女衆が集まって話をしていた。アキの姿を見ると
「雷ばあさんに仕え、疲れているのか。元気ないぞ」
と声をかけてきた。アキは
「みなさん、雷ばあさん雷ばあさんいうけど、優しい良いばあさんですよ。一度だって雷を落とされ、怒られたことなんてありませんよ」
笑みをうかべて言った。すると
「ハハハ・・・雷を落とされる?・・・あんたの所のばあさんは決して怒らないやさしいばあさんだよ」
「そうです。やさしいばあさんです。どうか雷ばあさんという呼び方をやめてください」
といった。すると
「ハハハ・・・アキさん何か勘違いしているよ」
「勘違い・・・」
「雷ばあさんの雷とは、働き者っていうことさ」
「働き者」
アキはキョトンとした。周りの者は大笑い。
「アキさん所のばあさんは形振(なりふ)りかまわず働くから、雷ばあさんというんだよ」
アキは意味がわからずキョトンとしている。
「いいかい、雷が鳴るだろ。その時ゴロゴロ鳴るだろう。そして雨も降るだろう。それで鳴(な)りも降(ふ)りもかまわず働く者ということなんんだ」
「ええっ、雷みたいに大声をだす怖い人ということじゃないの・・・」
ハハハ ハハハ・・・みんな大笑い。アキさんも大笑い。
その後、アキは自分も雷ばあさんとよばれるようにと、形振(なりふ)り(鳴り降り)かまわず一所懸命働いたとさ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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