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サツマイモと盗人

いすみ市の昔ばなし

1
むかしむかし。江戸時代のことです。ここ夷隅地方一帯は日照りがつづき、米が穫れませんでした。喜助の家でも奥さんが
「喜助さん、そろそろ米びつもからになりそうじゃ」
と、食糧の心配をしていました。喜助は心配かけまいと
「そうか、そうか。でも心配すんな。上総(かずさ)は日照りでも隣の下総(しもふさ)は米があるだろう。知り合いがいるので分けてもらってくる」
と、下総にでかけました。
知人の家に来ると喜助は、夷隅地方が飢饉で米がとず、子どもたちがお腹をすかしていることを話しました。
「うむ、そりゃあ、たいへんなことだ」
「はい。子どもたちには、ひもじい思いをさせたくはないんで・・・」
「そうですか。喜助どんの子ども思いは、立派ですな」

2
その晩、喜助はお客からめずらしいものをごちそうになりました。
「うまい! だんな、これはなんて食べ物ですか」
「これはな、サツマイモです」
「サツマイモですか。うーん、甘くてうまい」
「そうでしょう。青木昆陽さんという江戸の学者さんがこの下総の国で育てた食べ物です」
「うまい、うまい。私の畑でも育ててみたいものだ」
喜助は、このおいしいサツマイモを夷隅に持ちかえり、自分の畑で育てたいと思い、知人にたのみました
「このサツマイモのタネを分けてくれまいか」
「ああ、これはタネではなくて苗を畑に植えるんだ。育て方も簡単で日照りの年には良い作物だ。夷隅に持って行って育ててみなさい。みんなに喜ばれるでしょう」
「ありがとうございます。必ず立派に育てます」
こうしてサツマイモは、下総から上総は夷隅地方のとある村に入ってきました。
村に帰った喜助は、サツマイモの苗を畑に植えると、大切に大切に育てました。
「いいか、いまにこの苗は大きく育ってうめえサツマイモというもんがたくさんできるからな」
「おっとう、それは本当か?」
「ああ大きく育って、食い切れんほど実をつけるぞ」
「そうか、早く大きくなるといいなあ」

3
あいかわらず夷隅地方は日でりつづきでした。しかしサツマイモは水もやらないのに元気に育っていきました。
「つるが出てきた。サツマイモは、こりゃあ木ではなく、つるになるのか。それなら、キュウリのようにそえ木をしなくては」
喜助は竹を切ってきてそえ木にしてやりました。そうして
♪ はやくのびろよサツマイモ
はやくまきつけサツマイモ
はやく実れよサツマイモ ♪
と、サツマイモの苗に語りかけながら大事に育てました。
サツマイモの葉は日に日に大きくなりどんどんのびました。しかしつるはそえ木の竹にまきつきません。いつまでも地をはっています。
畑一面につるがのびましたが、かんじんのサツマイモの実をつけません。それでも喜助は
♪ はやくのびろよサツマイモ
はやくまきつけサツマイモ
はやく実れよサツマイモ ♪
と、育てました。しかし、実はつきません。
「花もさかん。これは本当にサツマイモか?苗を間違えたのだろうか。 いやいや、あのだんながうそをつくはずはないし・・・」
夏になって小さな花をつけました。
「花の次は実だ。キュウリと同じように花の次はいよいよ実がつくはずだ」
と実がつくとおもっていました。しかし、いっこうに実がつく様子がありません。
「このサツマイモは、下総の気候でしか実をつけないのだろうか。上総の地では無理なのだろうか」

4
喜助があきらめかけたある日、畑にあるわずかな作物をぬすむドロボウが侵入しました。
「畑あらしだー」
逃げるドロボウを、喜助は追いかけました。
「作物ができず、みんなこまっているのに、畑をあらすとはゆるせん」
ドロボウは、喜助のサツマイモ畑へ逃げ込みました。するとサツマイモのつるがドロボウの足にからまって、ドロボウは転んでしまいました。
「わははは、サツマイモのつるにひっかかったな。サツマイモのつるが、役にたったぞ。助かった」
と、大よろこび。ドロボウの足にからまったサツマイモのつるの先をを見た喜助は、ビックリ。
「これは下総の国で食べたサツマイモでねえか。そうか、サツマイモは土の中になるのか」
喜助は夢中で、ほかのサツマイモのつるを引っぱってみました。するとつるの先には、丸々太ったたサツマイモがついています。
「おおっ、サツマイモ。サツマイモだ。これがサツマイモだ。これで、子どもたちが腹をすかせる事はなくなるぞ」
喜助がサツマイモに気をとられているすきにドロボウは逃げだしました。それを見た喜助はドロボウにサツマイモを投げてやりました。
「これは礼だ。持っていけ。お前がいなけりゃ、サツマイモを土の中でくさらすところだった」
「へえ、サツマイモ?」
「ああ、このイモのことじゃ。うまいぞう」
それから夷隅地方の農家では、どこの家でもサツマイモをつくるようになったとさ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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