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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

貝がらにばけた新米(おさんきつね)

いすみ市の昔ばなし

太東岬の森に、ばかすことのうまいきつねの家族がすんでいた。なかでも「おさん」という女きつねは、ことのほかばかすのがうまかった。ここを通る商人や百姓たちをばかしては、たくさんの金品をとっていた。

1
ある秋のことであった。東浪見の里はしゅうかくの季節をむかえていた。「今年もほうさくでよかった」
「ほんとによかったこと」
「春先の雨と夏の照りがよかったからねえ」
「これで となりの長者どんにも、ねんぐをおさめられる」
みんなよろこんだ。たわらにつめられた米は、荷車にのせられて長者の屋しきにはこばれるのがいつものならわしであった。
「太東岬を通るときは気をつけろ。おさんきつねにばかされないようにな」「ああ、わかった。わかった。気をつけるよ」
田子作はへんじをしながらも、このおれさまがきつねになんばかされるか、と心の中で思っていた。

2
米をつんだ荷車が太東岬にさしかかった。
「ここが一ばんの難所だ。がんばれ」
「がんばれ、もうしばらくのしんぼうだ」
海からの風がゴーゴーとふきあげ、がけ下の海をみおろすと白波がしぶきをあげていた。がけをすぎ、森にはいった。ふきあげる海風をまともにうけなくなった。しかし、ゴーゴーとなる風はあいかわらず強く、森の木々をゆすった。
「まあ、まあ みなさん。ごくろうさん。ちょっとお休みくださいな」
森のまがり道をすぎたときだ。きれいな娘さんが、声をかけるではないか。道ばたには茶店がならび、店の中にも外にもきれいな娘さんが、笑顔で手まねきしています。
「ああ、つかれた、つかれた。休んでいくべえ」
「つかれた、つかれた」
「ここまでくれば、長者どんの家も、もうすぐだ。休んべえ、休んべえ」
なんて、いっている間に茶店からきれいな娘さんたちがでてきて、手をひっぱって百姓たちを店の中につれこんだ。
「お客さん、どこへ・・・」
「ああ、これから長者どんの家に今年のねんぐ米をとどけるんだ」
「すると、あの荷物は全部新米・・・」
「ああ、そうよ」
「新米ねえ。たまには新米たべたいものよ」
「だめ だめ。新米なんて、われわれ百姓やおまえたち小娘などが口にするもんじゃねえ」
「これから、長者どんのところにおさめ、さむらいや京都のお公家さんが食べるものよ」
「わしらの口にするもんは、やすい酒にぼたもちでじゅうぶんなんだ」
「ひたいに汗して働きゃ、これもおいしいものよ」
「そうだ、そうだ・・・」
酒とぼたもちでお腹いっぱいになり、すっかり気分よくなった百姓たちはふらふらしながら、店からでてきた。
「あれえ、日がくれてしまった。おいねえ」
「いそぐべえ」
百姓たちは荷車をひっぱて長者どんの家にいそいだ。
「なんだか、重いなあ」
「うん、少し酒がはいりすぎたかな」
と、いいながら長者どんの家にたどりついた。

3
長者どんの家には長者どんをはじめ役人たちがまっていた。
「ごくろうさまでした。まあ、休んでくだせえ。運んできてくださった新米でご飯をたきますから、まあ、ゆっくり食べていってくだせえ」
屋敷の使用人たちがさっそく俵をあけた。
「あれあれ。あじょうしたことだべえ」
「どうした、どうした」
「米がまあ、貝がらだの小石にばけてしまっている」
「あれあれ、こっちの俵もだ」
どの俵からも、新米ではなくて貝がらと小石が出てくるだけだった。
「田子作、太東岬で茶店によったなあ」
「はあ、ほんのちょっと、休んだだけで」
「おさんぎつねのしわざだな」
「そういえば、なんかくせえとおもったら。フンとションベンのにおいだ」
みんないっせいに、口に手をあててハアーハアー息をはいた。すると、くさいといったらありゃしない。
「酒のんだだろう。ばかだなあ、ありゃあ、馬のションベンだ」
「ぼたもち食っただろう。ありゃあ、馬のフンだよ」
「・・・・」
ションベンをのまされ、フンをたべさせられた百姓たち。米が貝がらと小石にばけたのでのカンカンにおこった長者どん。しかし、どれもあとのまつりであった。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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