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地名の話

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九十九里浜

いすみ市の昔ばなし

「九十九里(くじゅうくり)浜の砂浜は、日本一長い」
「長いって、どのくらいあるの」
「そりゃ、九十九里(くじゅうくり)でしょう」
「九十九里(くじゅうくり)・・・?」
「一里が四キロメートルでしょう」
「九十九かける四・・・」
「そんなに長いの・・」
「大原町から東京までが約百キロでしょう・・・」
「じゃあー、四百キロ近くもあるはずないじゃん・・・。うそー」
・・・日本一長い砂浜が九十九里(くじゅうくり)浜と命名された理由に、こんな話が語り伝えられています。

1
むかし むかし。今から約九百年ほどむかしのことです。東国(とうごく)をせめ、勝をえた八幡太郎(はちまんたろう)義家(よしいえ)は京の都にかえるとちゅうでした。いくさの神様である鹿島神社(かしまじんじゃ)と香取神社(かとりじんじゃ)に、勝利したお礼まいりをすませ、利根川にそって太平洋にむかっていました。
「このたびのいくさは、はげしかったのう」
「さようで」
「でも、こののどかなけしきを見ていると、東国(とうごく)でのいくさがうそのようでございます。」
「潮のかおりがするが、海がちかいのかのう」
「は、はい。もうすぐ太平洋でございます」
やがて、太平洋にでました。あら波のうちよせる浜辺が、青空の下につづいています。一行はだまって、はてしなくつづく砂浜をぼうぜんとながめていました。砂丘は地のはてまで、どこまでもどこまでもつづいているかのように、ゆっくりと曲線をえがき、長く長くつづいています。美しいけしきにみとれていた義家(よしいえ)は
「この浜辺は、いったいどこまでつづいているのじゃ」
と、年おいた案内人にたずねました。案内人は、こしをひくくして
「はい、この浜はとおく上総(かずさ)の国は東浪見(とらみ)が崎というところまでつづいております」
遠くどこまでもつづく砂丘をみながらこたえました。
「東浪見(とらみ)が崎ともうすところまでは、いかほどの道のりでござる」
「は、はい。それが」
「どうした。しらぬのか」
「・・・それが、あまりにも長い浜でございますので、どのくらいの道のりか、はかったものもございません。いかほどの道のりか、さだかでございません」
「さようか。さだかでござらぬか。・・・ならば」
義家(よしいえ)はせおっていた矢をおろし、一本を足もとの砂にさしました。
「だれも はかったことがないなら わしがはかってつかわそう」
「どうやっておはかりになられます。砂丘のさきはみえません。むりでございます」
家来たちも心配しています。
「なに、このように弓矢を一里(当時の一里は約六六〇メートル)ごとにさしていくのだ」
「なるほど。一里ごとなので、砂にさした弓矢の数が浜の道のりというわけですね。さすが義家(よしいえ)さま」
「この長い浜の道のりがわかれば、土地のものもさぞよろこびましょう」

2
義家(よしいえ)一行は弓矢を一本一本砂浜にさしながら、荒波のうちよせる浜辺にそってすすみました。
「・・・三十三本 三十四本 三十五本 三十六本・・・」
砂丘のずっとむこうに、ぼんやりと岬が見えてきました。太陽はちょうど真上にきていました。
「・・・五十一本、五十二本、五十三本・・・」
「そろそろ、お昼ですが・・・ひとやすみしましょうか」
「いやいや、先はまだ長い。昼めしは歩きながら食べようぞ」
休む間もおしんで歩きました。
やがて、空にとけこんでいた遠い砂丘の先に大きなものがぼんやりと見えてきました。
「・・・なにか見えてきたようだが・・・」
「あれが、東浪見(とらみ)が崎でございます。日暮れには着けましょう」
「おお、あれが東浪見(とらみ)が崎でござるか」

ぼんやりと見えていた東浪見(とらみ)が崎が、どんどん目の前にせまってきます。「・・・八十五本、八十六本・・・」
波にあらわれ、風にふかれて怪奇になった岩が近づいてきます。日はすっかり西にかたむき、今にも山にしずもうとしています。
「・・・九十七本、九十八本・・・」
薄暮がおとずれていました。
「・・・九十九本」
九十九本目をさしたのは、東浪見(とらみ)が崎のそびえる岸壁の足元でした。
「おお、九十九本。九十九里(くじゅうくり)でござる」
義家(よしいえ)一行はふりむいて、弓矢のつづく浜辺をながめていました。
案内の老人は
「九十九里(くじゅうくり)、九十九里(くじゅうくり)・・・」
と何度も何度つぶやいていました。
これ以来、この長い長い浜辺は九十九里(くじゅうくり)浜とよばれるようになりました。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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