• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

あたたかい話

あたたかい話

「屁こっき」と「黄金(こがね)のナス」

御宿町の昔ばなし

むかし、むかしのことだ。外房御宿の浜にお爺さんとお婆さんが住んでいた。
ある朝のこと、お爺さんが浜辺でワカメを採っていると、小さな粗末な舟が一そう流れ着いた。
中をのぞくと、美しい女が息も絶え絶えになって横たわっていた。
「こりゃぁかわいそうだ。何日波にもまれて来たのやら、すっかりやせ細って」
お爺さんは、その女を背負って我家へ連れ帰り、白湯(さゆ)を飲ませ、やれカユを食わせ、と、一生懸命かいほうしてやった。
やっと元気を取りもどした女は、爺さんと婆さんに
「私は島流し者で、もうどこへもいくところはありません、どうかここへ置いて下さい」
とたのんだ。

二人には子供も無かったので、おいてあげることにした。
女ごは、島流しにあう前から、お腹(なか)に児(こ)を宿していたとみえ、やがて玉のような男の児を産んだ。
お爺さんとお婆さんは、「孫までできた。なんて幸せ者だ」と喜び、大事に育てた。
男の児がだんだん大きくなって10歳になったときだ。家の軒先(のきさき)につばめが巣をつくった。日が経って、そのつばめに卵がかえり、親鳥がかわるがわるもどって来ては子つばめにエサをやっている。
男はこれを見ると母親にたずねた。
「つばめでさえもふた親があるのに、どうしておらにはおっ母さんしかいないの・・・」
母親はこまった顔をしたが、話した。
「おどろかないで、よく聞いて。じつはお前の父さんは、遠く奥州仙台のお城のお殿さまです。むかし、お殿さまには大勢のお后(きさき)がおりました。私は一番若くて、みんなより可愛がられていました。ある日、おおぜいの后がお殿さまによばれた時のことです。こともあろうにお殿さまの前で、ある后が屁をこいてしまったのです。后たちは私を『屁をした。無礼者だ』とさわいだのです。それで罪を私にかぶせて島流しにしたのです。何日も流れ流れて死にそうになったとき、お爺さんとお婆さんに助けられたのです」
「屁をこいただけで島流しとはあんまりだ。お殿さまに会って、おっ母さんを元の通りにしてあげるだ。奥州仙台へ行かせてくれろ」
男は、たった一人で仙台へ向かった。
仙台のお城に着いた男は、城のまわりをまわりながら、大声で、
「黄金(こがね)のなるナスのタネはいらんかぁ、黄金のなるナスの種はいらんかぁ」
と呼び歩いた。
殿さまはその声を聞きつけ、城の中へ呼び入れた。
「お前のその種は、本当に黄金(こがね)のナスがなるか」
「はい、なります。けれど、生まれてから一度も屁(へ)をこかない女がまかないと、芽は出て来ません。また、蒔いても実がなるまで、屁をこいてはなりません」
「ばかをいうな。そんな長いこと屁をしない者などいるか」
「しかし、おらの母親は、こきもしない屁を、こいたと言って島流しにされた。どうしてですか・・・」
殿さまは、目をまんまるにして男の子を見た。
「うん、これがわが子であったか」
と気づいて大喜び。
「わしにはまだ世継ぎがない。我が子と呼ぶのは、そち一人じゃ。ぜひこの城に来てくれ」
といって、すぐに母と子を引き取って、男を殿さまのあとつぎにしたそうだ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん