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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

五助じいさんとキツネ

いすみ市の昔ばなし

1
山田村(やまだむら)の五助(ごすけ)じいさんが、となり村の平治(へいじ)さんのところに法事(ほうじ)(死んだ人にお経をあげること)によばれてのかえりのことであった。
酒によった五助じいさんは山道を
フーラリ、フーラリ
いい気持ちになって歩いていた。気のせいか、さっきから道ばたの小石が、足につきまとってしかたない。
「ああ、飲みすぎて、よっぱらったようだ」
ひとりごとを言いながらがら歩いていた。
しばらく、右にふらり、左にフラフラしながら歩いていたが
「ええい、じゃまな石だ」
と、五助じいさんは小石をおもいきりけとばした。
すると石は
ゴロゴロ、ゴロゴロ・・・
音をたてながら、草むらにころがっていった。
ところが、しばらくすると、さきほどの小石がまた
ゴロゴロ、ゴロゴロ・・・
音をたてながら、五助じいさんの足もとにころがってきた。ふしぎにおもった五助じいさんは、立ち止まって小石をみていた。すると小石は二つにわれて、左右の草むらに、すうっと消えてしまった。
「これはもしや?」
五助じいさんが気がついたときは、すでにおそかった。手にもったおみやげの重箱がなくなっていた。
「しまった。まんまとやられた」
五助じいさんはくやしがった。

2
さて、その夜のことだ。
「こんばんは、こんばんは」
と、戸をたたくものがいた。
「こんな夜ふけにいったいだれだろう」
五助じいさんが戸をあけてみると、月の光りの中に二人の男の子が立っていた。年のころは六、七歳である。
「こんなおそくどうした?」
五助じいさんがたずねると
「かあちゃんが、はらいたがっているだ」
「はらが・・・」
「あかんぼうが生まれそうなんだ・・・」
「それはたいへんだ」
五助じいさんはお菊ばあさんをよんだ。お菊ばあさんは
「おまえさんは、どこの子だね」
「おら、布施の山下の子だ」
兄さんらしい子がこたえた。お菊ばあさんは
(はてな、布施に山下なんていう屋号があったかな)と、おもったが二人の子のあとをついて行った。やがて布施の寺がみえてきた。二人の子は寺をすぎ、どんどん山にのぼっていく。
五助じいさんとお菊ばあさんがついた家は、山の中の大きな木の下にあるそまつな小屋だった。いろりの火が、トロリ、トロリ燃えていた。いろりのそばでは、わらのふとんにくるまった母親が、苦しそうに横になっていた。
お菊ばあさんは
「安心しな。もうすこしで赤ちゃんがうまれるよ」
と、やさしくはらをなでてやった。苦しそうな母親の顔は、ほっとしたようだった。

3
あかちゃんは、ぶじ生まれた。
五助じいさんが生まれたあかちゃんをだき、お菊ばあさんは用意してきた薬草を母親にのませた。
やがて、母親はしずかに眠りはじめた。
「さあ、もう安心だ。赤ちゃんも、おっかさんも元気だ・・・」
五助じいさんが二人の子に声をかけると、兄さんらしい子が近よってきた。
「ありがとさんでした・・・。これ・・・」
と、言ってふろしきにつつんだものを、手わたした。
五助じいさんはびっくりした。なぜなら、昼間の法事でおみやげにもらった重箱のふろしきづつみだったからだ。
「どうもおかしいと思ったら」
五助じいさんは、キツネの親子をつかまえてやろうとおもったが、なんだか心がほのぼのとあたたかくなって
「ありがとさん。えんりょなくもらっていくよ」
と、言って家にかえった。
このあたりにはむかしキツネがたくさんいた。そうして人をばかしたものだ。ところがいつの間にか、キツネが人をばかす話もきかなくなった。すこし、さびしくなったもんだ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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つか坊と姉ちゃん