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不思議な話

不思議な話

曼珠沙華寺

大多喜町の昔ばなし

1

ある秋の夜(よ)、三条(さんじょう)の里は月に照らされていた。刈(か)り入(い)れの終わった田んぼ、かやぶき屋根、キラキラ流れる川・・・。虫の音、かすかな風の音。静かな静かな三条の夜であった。
住職(じゅうしょく)は(今年も秋がやってきたか。月日のたつのは早いものだのう)と、つぶやきながら境内(けいだい)を歩いていた。
その時、境内(けいだい)のかたすみですすきの穂(ほ)がゆれたかと思うと
「私は旅の途中、この地で命を落とした者でございます。村の衆が私の亡骸(なきがら)をこの寺まで運び、葬ってくださりました。今宵(こよい)は月があまり美しいので、霊となって現世(げんせ)にまいりました。彼岸花(ひがんばな)はもう咲きましたか」

「彼岸花(ひがんばな)?」

「ええ、彼岸花です。秋の彼岸になると真っ赤に咲く、あの曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の花です」
「曼珠沙華ねえー。このあたりでは、あまり見あたりませんな」
「そうですか。・・・それにしてもご住職、このお寺の花はみごとですねえ。私は花で季節の移り変わりを感じています。江戸の私の家のまわりには曼珠沙華が咲いておりました。それはそれは見事なものでした」
「そうですか。なつかしいことでしょうね」
・・・住職は霊と夜更(よふ)けまで、草花や四季の風情(ふぜい)を語りあった。月が西にかたむくころ
「ご住職様、ありがとうございました。空がそろそろ明るくなってまいりましたので、私は消えることとしましょう」
そういったかと思うと、あっという間に姿がかき消えた。

2

あくる日、住職は旅人が葬(ほうむ)られている傾(かたむ)いた墓石を修復(しゅうふく)し、花を供え、お経をあげた。

そうして、旅人の霊(れい)をなぐさめようと、寺の境内(けいだい)に曼珠沙華の球根を植えた。年ごとに花の数は増え、境内には曼珠沙華の花があざやかに咲いた。

3

やがて住職が亡くなると、住職の意思をつごうと、里の人たちが曼珠沙華の球根を植えた。
秋の彼岸になると曼珠沙華の花が咲いた。夕日にそまった曼珠沙華、それはそれは美しかった。 そして、だれいうともなく、この浄宗寺(じょうそうじ)を『曼珠沙華寺(まんじゅしゃげてら)』と呼ぶようになった。

おしまい
(斉藤弥四郎 著より)

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