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不思議な話

不思議な話

からかさ松の怪

大多喜町の昔ばなし

1

むかしむかしのことだ。
大多喜は小谷松(こやまつ)に玄兵衛(げんべえ)という、うでのいい木こりが住んでおった。玄兵衛の手にかかったら、どんな大木でもたやすく伐(き)りたおされた。
ある年のことだ。庄屋(しょうや)は家をたてかえることにした。庄屋は玄兵衛を呼んだ。
「じつはな、わしの屋敷もだいぶ古くなった。となり村の庄屋の家も新しくつくりかえたという。そこでわしの家も新しくつくりかえようと思うのだ」
「それはそれは、おめでとうございます」
「ところがな、材料がそろわない。大黒柱(だいこくばしら)にする材料がのう。・・それで、おまえさんに、ひとつたのみがある」
「わしにできることなら、なんなりと、もうしつけてください」
「あの山のてっぺんにある、からかさ松を切ってくれまいか」
「からかさ松を切る・・・」
「たのむ玄兵衛。あの松なら庄屋の家にふさわしいだろう」
「でも・・・、庄屋様。あの松は山の神様だ。死んだおとうも、じいさまもあのからかさ松を切ったり、傷(きず)をつけてはなんねえ、といっていました」
「そこをなんとか。・・・玄兵衛、いろいろめんどうをみているのを、わすれたのか」
庄屋は声を荒げた。
「は、はい。庄屋どんには、おせわになっております」
「・・・・・」
玄兵衛はことわりきれず、しぶしぶしょうだくした。肩(かた)をおとして家に帰った
た玄兵衛だった。

2

よく日、水ごりをし、神だなと仏だんに手をあわせ、山にでかけた。

玄兵衛の足どりは重かった。山のてっぺんのからかさ松に来ると、御神酒(おみき)をそなえ柏手(かしわで)をうった。そうして、大人五人が手をまわしてやっとかかえることができるほどのからかさ松に、斧(おの)をうちこんだ。
カーン カーン カーン カーン
斧の音は山にこだました。
やがて、おのをうちこむカーンカーンという音は、玄兵衛の耳に、
「タスケテクレータスケテクレー」
というふうにひびいてきた。おそろしくなった玄兵衛は、思わずその場にたちすくんでしまった。斧を打ちこんだ松のみきをみると、真っ赤な血がたらたらと流れているではないか。
「助けてくれ」

「神様、助けてくだされ・・」

玄兵衛は山をかけおりて、家にかえった。その日から頭の痛みをうったえて、寝こんでしまった。
しばらくは寝こんだままだったがやがて回復した。ところが、からかさ松を切るように命じた庄屋どんの家は家運が下むいて、とうとうほろんでしまった。

3

里の人たちはこの後も、この大木を「からかさ松」と呼び、山の神様としてあがめた。毎年正月には、しめ縄をはって御神酒(おみき)をそなえ、山仕事の行きかえりに手をあわせて拝んだ。だが、第二次世界大戦の時「松やにをとれ」という命令がくだり、このからかさ松をダイナマイトでたおしてしまった。その戦争の結果は、みなさん知ってのとおりだ。

 

おしまい

(斉藤弥四郎 著より)

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