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怖い話

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狒狒(ひひ)の田五郎

大多喜町の昔ばなし

1

ある、冬の夜だった。猟師の一団が養老川沿(ようろうがわぞ)いの「こうこめ」という所にさしかかった。
頭領(とうりょう)が立ち止まった。
「おい、川の向こうを見ろ。あれは何だ。」
みな、向こう岸を見た。光が動いている。猟師たちが立ち止まると、光も止まった。猟師たちが歩きだすと、光も動きだす。
いったい何だろう、みな目をこらして見た。
「おい、女だ。提灯(ちょうちん)をもっているぞ」
「こんな時間に、化けものか

「こんな時間に何してんだ」

頭領が呼びかけても、返事がない。提灯(ちようちん)をもって、こちらをみているだけだ。
「おい、道に迷ったのか・・・どこへ行くんだ」
頭領は大声で話しかけた。しかし、何もいわない。猟師たちはかまわず歩き出した。すると対岸の提灯を持った女も歩きだした。猟師たちが歩くと女も歩き、止まると女も止まる。
「化けものか。一発ぶちかましてやるか」
弾(たま)をこめ、ズドーンと放った。すると女は
「ケタケタケタケタ・・・」
と笑いだした。
闇夜(やみよ)にこだまする不気味な笑い。みんな怖(おそ)ろしくなってきた。女をねらって必死に撃った。しかし、弾は一向に命中しない。女は
「ケタケタケタケタ・・・」

笑い続けるだけだった。腕におぼえのある猟師たちも恐怖(きょうふ)にふるえた。

2

その時、頭領は死んだじいさんのことばを思い出した。(田五郎は、化けものだ。化けものは体を撃(う)ってもだめだ。化けものが手にしている物を撃つことだ。手に持っている物だ)。

そこで女の持っている提灯に的をしぼり、引き金を引いた。
「ギャー」
という悲鳴とともに女の持っていた灯りが消え、あたりはもとの闇夜になった。猟師たちはぼう然とするばかりだった。

3

翌日、正体を確かめようと「こうこめ」に来てみると、百歳をこえるかと思うほどの年老いた長い白い毛の猿が、血を流して死んでいた。
猿はあまり年をとると、「狒狒(ひひ)」という化けものになるという。このあたりでは、この狒狒(ひひ)を田五郎と呼び、恐れたという。

おしまい
(斉藤弥四郎 著より)

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つか坊と姉ちゃん