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地名の話

地名の話

源頼朝と船子

大多喜町の昔ばなし

1

むかしのことで、うそかほんとかよくわかんねけんが、こんな話があったとさ。今の中学校のあたりを、「船子(ふなこ)」と、いうっぺや。あんで、船子っていうか、知ってっか。
それはな、鎌倉幕府をつくって、武士の中で一番偉い、征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)になった源頼朝っていうお武家(ぶけ)さんの若いころの話ださ。伊豆の「石橋山の戦い」っていう、戦で負けて、こん房総に逃げてきたんだってよ。
あんで、房総に逃げてきたかっていうとな。そん頃、今のいすみ市の布施になあ、上総介広常(かずさすけひろつね)という、いっぺ家来をもったお武家さんが住んでいたんだってよ。そっでもって、頼朝は上総介広常に「助けてくれるように」頼みに来たんだって。
2

ちょうど大多喜に来たときんことださ。今の千葉銀行のそばにある「外廻橋(とめぐりばし)」にさしかかった時だってよ。そん時はえれい、霧がかかっていたってよ。
そん、霧ん中から
ギイー ギ ギイー
という音が聞こえてきたんだってさ。不思議に思った頼朝はなあ、馬から降りてさ、その音のする夷隅川(いすみがわ)をジーッと見ていたってよ。
すっとなあ、霧が晴れてきてよ、夷隅川の上から下にかけて舟がいっぺい、下っていったってよ。
ギイー ギ ギイー
こんな櫓の音させてな。
頼朝はしばらく船をながめていたってよ。激しかった戦のことや死んで行った家来のことでん思い出しながら、戦のねえ、こんな景色のような世の中を、夢にでも見ていたんだっぺよ。
3

船が見えなくなって、
ギイー ギ ギイー
という艪(ろ)の音が消えても、頼朝は夷隅川に見とれていたんだってよ。
しばらくすっと、
「ああ、いい気持ちだ。船子は、いいなあ」
「船子はいいなあ」
と、いったってよ。そっで、もって、
「今後、この地を船子ともうせ」
と家来たちに、いったってよ。
こんな話から、いつの間にか、このあたりを『船子(ふなこ)』というようになったってよ。
船子てのはよ、船を漕(こ)ぐ船頭(せんどう)のことださ。
おしまい
(斉藤弥四郎 著より)

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