• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

不思議な話

不思議な話

大多喜城「底知らずの井戸」

大多喜町の昔ばなし

1
天正十八年(1590年)本多忠勝(ほんだただかつ)は徳川家康(とくがわいえやす)の命により大多喜城を築いた。暮らしに水は欠かせない。まして、戦で籠城(ろうじょう)ともなると、水が生死を分ける。 そこで城内二(に)の丸(まる)に、日本一と呼ばれる大井戸を掘った。雨の降らない夏でも、満々と水をたたえ「底知らずの井戸(そこしらずのいど)」と呼ばれていた。

2
八代藩主松平正和のときだ。
「あの大井戸は、底知らずの井戸だ。いくら水を汲(く)んでもつきることはない」
「いや、そんなバカなことがあるか。たくさん汲めば水はなくなるに決まっている」
「いや、つきることはない」
侍たちがいい争っている。そこで、殿様に許しを得て井戸の水を汲み出すことになった。
城下の力自慢五十人の人夫を集め、水が汲み出された。八個の滑車に十六個のつるべ桶で、水汲みが行われた。見物人たちもいい合った。
「底のない井戸なんてあるものか。昼頃には底が出てくるさ」
「いや、底なしの井戸といわれているからな・・・」
「この井戸は夷隅川につながっているらしいぞ」
「夷隅川どころか、遠く太東岬(たいとうみさき)の海につながっているというぞ」
「そんなばかなことがあるもんか」
「いや、城が敵に囲まれたら、大井戸に逃げ道が・・・」
陽が沈み暗くなった。それでも作業は続き、夜を徹して水を汲み出した。朝を迎えた。さすがにみな、疲労の色はかくせなかった。
「本当に底がないのかねえ」
「ばかな、あるにきまっている。もう一日、水を汲み出してみよう」ということになった。

3
いくら汲み上げても底が見えない。必死になって汲み上げた。二日目の夜になった。それでも底は見えてこない。やがて、東の空が明るくなり夜が明けた。
井戸をのぞいて見ると、相変わらず満々と水をたたえている。
「やっぱり、お城の井戸は底なしだ」
みな、その場に長々と寝そべってしまったと。

おしまい
(齊藤 弥四郎)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん