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欲ばり者の話

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そがドンの田植え(別バージョン)

大多喜町の昔ばなし

1
むかしむかしのことだ。
桜が散って,桐(きり)の花,卯(う)の花が咲く季節になった。村のあちこちで田植えが始まった。籾は順調に育ち,そがドンの家も田植えが始まった。
そがドンはこのあたりの大地主だ。
「今年は,隣の地主に負けず,たくさんの米を作れ」
と張り切った。困ったのはそがドンから田んぼを借りている百姓達だ。朝は太陽の昇る前から田んぼに出かけ,昼休みもなく働き,夕方は日が暮れてからも働いた。おかげで,百姓達はみな,疲れ切っていた。百姓達だけではない。田を耕す牛も食欲がなくなり,やせてきた。
それでも,そがドンは
「隣の地主に負けるな」
「去年よりもたくさんの米を収穫しろ」
と,百姓達を叱咤激励(しったげきれい)した。困り果てた百姓達は
「そがドン,みんな疲れています。少し休みをお願いします」
「太郎兵衛の息子も嘉助の女房も寝込んでしまいました。どうかお休みを・・・」
と,そがドンに願い出た。しかしそがドンは聞く耳をもたなかった。
「何を言う。わがまま言うでねえ」
「働くのが嫌なら働かなくていい。そのかわりもう,田んぼ貸さねえぞ」
と百姓達を困らせた。「田んぼを貸さねえぞ」の一言にそがドンの言いなりになるしかなかった。

2
今朝も東の空が紫色に染まると,百姓達は疲れ切った体を引きずりながら田んぼに出かけた。今を盛りに咲く桐の花も卯の花の美しさも愛(め)でる余裕さえなかった。みな体にむち打って働いた。
やがて,陽が落ち薄暗くなってきた。代かきをしていたやせた牛が
モー モー
と悲しげな声で鳴いたかと思うと,泥の田んぼにたおれた。
「どうした,どうした」
みんな牛の周りに集まって見守った。しかし荒い呼吸をくり返しながら,息をひきとった。田んぼの向こうの林から
ホーホー ホー
ホーホー ホー
と,牛が亡くなったのを悲しんでいるかのように,低い声でホーホー鳥がで鳴いた。田植えは東の空から月が出るころやっと終わった。その日は旧暦の五月十六日だった。

3
不思議なことが起きたのはその後だ。その年のそがドンの田んぼの稲は一粒も実をつけなかった。村人は
「欲張ったから罰があたたんだろう」
と噂(うわさ)した。
その後,田代の人たちは毎年五月十六日には「そがドンの田植え」といって
田んぼ仕事を休んだ。この仕来(しきた)りは長く続いた。しかし,第二次世界大戦が始まると男達は戦場にかりだされ,農家に人手がなくなった。それで五月十六日に田植えを休むことはなくなった。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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