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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

キツネをばかした話

大多喜町の昔ばなし

いすみ鉄道、西畑駅や西畑小学校のあたりを「狐原(きつねっぱら)」といいます。
むかし、むかし、狐がいっぱいいて通る人をばかしたので、いつの頃からか、だれ言うともなく狐原とよんでいました。人がキツネに化かされる話はよく聞きますが、この話は人がキツネを化かしたという話です。

1
むかし、むかし、田左右衛門(たざえもん)というお百姓さんの家には三人の兄弟がいました。三人は
「いたずらキツネをたいじしよう」
と、夜更け切り株に腰をおろして、キツネが出るのを待っていました。
すると、カラコロ、カラコロ、下駄(げた)の音がしてきました。大きなふろしき包みを重そうにかついだ女の人が歩いてきました。
「こんばんは」
女は、ていねいにあいさつをしました。三人は(化けキツネかな)と思い、よくよく見ましたが、キツネが化けたようにも見えません。
「こんな夜更けにどこへ行きなさるかね」
一番上の兄さんがたずねました。
「わたしは、この先の平沢村(ひらさわむら)の喜平(きへい)どんの嫁ですが、大多喜の城下へつかいに行ったら、すっかり帰りがおそくなってねえ。それに荷物も重いので、歩きにくくて困ってるんですよ。兄さん達、どなたか荷物をもって、家まで送ってくれませんかね」
女はたのみました。
「それなら、わしが持って行ってやる」
一番上の兄さんが荷物を背負って、女のあとからついて行きまた。

2
平沢村(ひらさわむら)まで行くと、おばあさんがうれしそうに出迎えました。
「まあ、まあ。うちの嫁の荷物をもって来てくださるとは、何と親切なお方だこと。お疲れになられたでしょ、どうぞ家に入ってお茶でもやってください。蕎麦(そば)も饅頭(まんじゅう)もありますから、たくさん食べてください。すぐに風呂もわかしますから」
ばあさんにすすめられて、蕎麦や饅頭をたくさんごちそうになりました。

3
そして風呂にも入れてもらいました。
「ああ、良い気持ちだ。汗をかいたあとは風呂にかぎる。本当に、いい気持ちだ」
風呂につかっていると
「おーい。そこで何をしている」
どこかで、人がどなっています。
「何しているって、風呂にはいっている」
といいました、
「そこは川の中じゃないか。この寒いのに風邪をひくぞ」
だれかが川からひっぱり上げてくれました。気がつくと、何と風呂ではなくて川の中に入っていたのでした。
もう、朝になっていました。川岸には、昨晩の食べ残しがありました。蕎麦はみみずで、饅頭は馬の糞(くそ)でした。
寒いのに、一晩中川に入っていたので、一番上の兄さんは風邪をひいて寝込んでしまいました。

4
二番目の兄さんが、かたきをとろうと狐原にやってきました。
また、カラコロカラコロ、下駄の音がして、喜平どんの嫁に化けたキツネがあらわれました。
二番目の兄さんも、コロリとだまされてミミズの蕎麦と馬の糞(くそ)を喰わされたうえに、冷たい川の風呂に入り、風邪をひいて寝込んでしまいました。

5
一番下の弟が、兄さん達のかたきをとろうと考え、お母さんに
「今度はこっちが、キツネをだましてやる。おかあさん。白い着物をぬってください」
と、たのみました。母さんは
「キツネたいじはあきらめておくれ。二人の兄さんのようになったら、どうするんだい」
と、とめました。しかし
「いい考えがあるから、だいじょうぶだ。まずは、白い着物をぬってください」
とたのみました。
母さんはしかたなく、白い着物をぬいました。

6
一番下の弟は白い着物を着てキツネがあらわれるのを、今か今かと待っていました。
夜がふけると、カランコロンカランコロン、下駄の音がして喜平どんの家の嫁さんに化けたキツネがあらわれました。
白い着物を着た弟は大声をはりあげました。
「われこそは、キツネをとりしまる稲荷大明神なるぞ。その方は、この間二人の男をだまし、風邪をひかせ寝込ませたであろう。何という悪ギツネじゃ。キツネをとりしまる稲荷大明神として、許しておけん」
喜平どんの家の嫁さんに化けてたキツネはびっくりして、キツネの姿にもどると
「稲荷大明神様、どうぞ許してください。もうあのようなひどいいたずらは二度といたしません」
「許してやってもいいが、おまえのいたずらはたちが悪すぎる。それというのも修行が足りないからだ。じゃが待ってよ。そうじゃ、おまえをキツネの中の偉い位につけてやろう。そうすれば、位にはじない立派なキツネになるように修行するだろう」
「へへー。ありがとうございます」
「しかし、位をやるかわりに小判一枚もらうぞ。ついでにここらのキツネどもにも位をつかわすから、みんな連れてくるがよい」
「へへー。ありがとうございます」
キツネは急いで帰って、仲間に
「小判一枚で位の高い賢(かしこ)いキツネになれる」
と、知らせました。

7
すると、キツネ達が、
「位の高い賢いキツネになれるのなら、一両なんて安いもんだ」
と、我先にと走ってやってきました。

8
「さあ、ここに小判を置いて帰りなさい。家に帰ると立派なキツネになっているはずじゃ」
というと、キツネ達は
「よろしくお願いします。どうか位の高い賢いキツネにしてください」
と、頭を地面にこすりつけてお願いし、帰って行きました。
それで、田左右衛門の三兄弟の家は、大金もちになりましたとさ。

西畑小学校や西畑駅近くを通ったら、このキツネを化かした話を思い出してください。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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つか坊と姉ちゃん