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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

狐原

大多喜町の昔ばなし

「いすみ鉄道」は外房線大原(おおはら)駅から別れ房総半島(ぼうそうはんとう)内陸部(ないりくぶ)、上総中野(かずさなかの)駅に至(いた)る延長(えんちょう)二六.九キロの単線である。終点上総中野(かずさなかの)駅で小湊(こみなと)鉄道と接続する。終点、上総中野(かずさなかの)駅ひとつ手前の駅を「西畑(にしはた)駅」という。このあたりは町村合併以前、「西畑(にしはた)村」と呼んでいた。それゆえ 旧村名を駅名にしたものだ。いすみ鉄道の多くの駅がそうであるように、この駅も風雨をしのぐだけの小さな小さな駅舎である。駅のすぐ前が西畑(にしはた)小学校。利用者は朝夕登下校する小学生が多い。そのせいであろう、マンガのキャラクターが乗降客を迎えてくれる。
車両は普段(ふだん)、一両。乗客の多い朝夕が二両というかわいい車両である。車両が駅に近づくと
カンカンカン カンカンカン・・・
カンカンカン カンカンカン・・・
・・・・
警報機(けいほうき)が鳴り、ホームのすぐそばの遮断機(しゃだんき)がゆっくりゆっくりおりる。この遮断機(しゃだんき)に「狐(きつね)原」と書かれている。「きつねばら」、なんてのどかで温かくて心なごむ地名だなあ、と思う。むかしむかし、キツネがたくさんすんでいたので、こんな地名がつけられたにちがいない、と思った。

1
現在「いすみ鉄道」とよばれているがその前は「木原線(きはらせん)」とよばれていた。昭和五年四月に大原(おおはら)・大多喜間が、昭和九年八月に上総中野(かずさなかの)まで開通した。現在はジーゼル機関車(きかんしゃ)であるが、開通当時はけむりをはく蒸気機関車(じょうききかんしゃ)であった。
蒸気機関車(じょうききかんしゃ)がはじめて通ったとき、そりゃおおさわぎであった。一番最初に村長さんが乗り、つづいて地主さんなど村の役人さんが乗った。おおぜいの村人は、線路にそってこしをおろして見物に来たという。
「あの世へのみやげばなしに、汽車っていうものに乗ってみたいもんだ。乗れないなら、せめて一目見ておきたいものだ」
腰のまがったおじいさんやおばあさんの手をひいて、はるばるやってくる若者もいた。
ある春の夜のことだった。東の山からのぼった月が西畑(にしはた)村を照らしている。
大原(おおはら)発上総中野(かずさなかの)行きの最終列車が西畑(にしはた)を通りかかった。総元から西畑(にしはた)駅あたりは、けわしくて真冬でも機関士(きかんし)は汗だくになって、いっしょうけんめい石炭をくべなければらなかった。
西畑(にしはた)駅に近づいたときであった。汽車の前でユラリユラリと赤いひかりがみえた。
「だれだ、こんな夜ふけに汽車見物なんか・・・」
機関士(きかんし)は
ピイーッ、ピイーッ
と、汽笛をならした。しかし、赤いひかりは動くでもなく消えるでもない。
ピイーッ、ピイーッ・・・
機関士(きかんし)は必死に警笛(けいてき)をならしつづけた。それでも光は動かない。あわててブレーキをかけた。
キキキキーッ・・・・
金属音を残して汽車が止まった。
「いったいだれだ。こんな夜に汽車見物とは」
どなりながら線路にとびおりた。
あら、ふしぎ。光はスッと消えてた。さきほどあかりのあったとこには、二本の黒い線路がつづいているだけだ。線路のそばをみても、おぼろ月にてらされた田んぼがつづいているだけだった。
「ふしぎなこともあるもんだ。あれはいったい何だったんだ」
機関士(きかんし)はひとりごとをいいながら、また汽車を走らせた。
西畑(にしはた)駅の近くにくると、このふしぎなあかりが出ることが機関士(きかんし)のあいだで話題になった。
「おまえもか見たか?」
「おまえもか?」
「いったい、あのあかりの正体はなんだろう?」
と、みなこわがった。

2
それから八日後のことだった。いつものように大原(おおはら)発上総中野(かずさなかの)駅行きの汽車が西畑(にしはた)駅にさしかかったときだ。あかりが三つ四つ線路のまえに見える。機関士(きかんし)は、うわさのおばけと思いこみ、さけんだ。
「おお、おばけだ」
機関士(きかんし)はワナワナふるえ、警笛(けいてき)をならすこともブレーキをかけることもわすれて
「うわー、おばけ、おばけ・・・」
とさけびながら目をつむって顔をふせていた。汽車は
シュッ シュッ ポッポ
シュッ シュッ ポッポー
・・・・
と西畑(にしはた)駅に停車することもわすれてすすんだ。
そのとき、
ボーンという音がした。でも、機関士(きかんし)はワナワナふるえながら、やっと汽車を走らせた。
シュッ シュッ ポッポ
シュッ シュッ ポッポー
・・・・
上総中野(かずさなかの)駅にきた。機関士(きかんし)はあわててブレーキをかた。やっと止まった。
「でたでた。おばけがでた」
といいながら駅舎にかけこんだ。
よくじつ、西畑(にしはた)駅に行ってみると汽車にひかれたキツネが線路に横たわっていた。
このようにこのあたりは、むかしキツネがたくさんすんでいたので「狐(きつね)原」とよばれていた。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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