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あたたかい話

あたたかい話

願いをかなえてくれた神様

大多喜町の昔ばなし

1
大多喜町三条の常宗寺は曼珠沙華寺で知られています。この寺の近くに「虫歯様」と呼ばれている神社あります。毎月二回、一日と十五日に境内を清掃をしています。清掃するのは次のようなお話があります。
だいぶむかしの話です。村に若い娘さんが嫁いできました。器量よしで働き者だったので
「村一番の嫁さんだ」
「うちにも、あんな嫁さんが来てくれないか」
と評判がたちました。
しかし、こんな噂もたちました。
「よう、少しくらいきれいだからって、あの嫁さん気取っているねえ」
「笑ったとこ見たことあるか」
と陰口をいう人もいました。しかし、笑わないのは嫁さんの性格だろうと、いつの間にか噂も消えました。

2
やがて嫁さんに子どもが授かり、お腹がふくらんできたのがわかるようになってきました。そのころからです。神社に通う嫁さんの姿が見られるようになりました。(じょうぶな赤ちゃんが生まれますようにと安産の祈願だ)と、特別に気にもしませんでした。
やがて女の子が生まれました。
「女親に似てかわいい子だ」
「男親に似なくてよかったね。目がパッチリしているとこなんか女親そっくりだ 」
とかわいい子をほめました。
赤ちゃんを背負って神社にお参りする嫁さんの姿がたびたび見られました。
「信心深い嫁さんだこと。若いのに関心だ」
と年配の人達は感心していました。そればかりではありません。拝殿の前で手を合わせ深々と頭を下げ、しばらくお祈りをした後に境内を掃除するのです。草をむしり、落ち葉をはくのです。
やがて子どもが大きくなる、子どもも一緒にお参りをして、掃除をする姿が見られました。

3
子どもの成長は速いものです。子どもは三歳になりました。いつものように神社にお参りし、嫁は子どもと一緒に掃除をしていました。近所のおばあさんが子どもを見て
「おお、大きくなって母ちゃんの手伝いかい。えらいねえ」
というと、子どもは
「はい、手伝いです」
と笑顔でこたえました。ばあさんは
「まあ、まあ。この子ったら歯並びがきれいなこと」
というのでした。すると嫁さんは子どもを抱き寄せ、わが子を見ながらいいました。
「ほんとうですか。おばあさん、ありがとうございます」
と、笑顔でこたえました。
「ああ、本当だとも。こんな歯並びの良い子はみたことねえ。大きくなったらお母ちゃんみてえに美人になるぞ」
というと、さらに
「わしゃ、あんたの笑ったの初めて見たね。あんたは笑うことを知らないのかと思っていたよ」
嫁さんは
「じつは、歯並びが悪いのを子どもの頃から悩んでいました。それで人さまの前で大きな口をあけて笑えませんでした・・・。子どもが授かったとき、歯並びの良い子にしてくださいと、神様にお願いしてきたのです 」
「ああ、それでよく神社にお参りにきていたんだね」
「はい。毎日お賽銭をあげることはできませんので、このように境内の掃除をしているんです」
「おお、それはそれは感心な」
「神様が私の願いをかなえてくださったんですね」
「そうだとも、そうだとも。あんたの熱心な願いが神様に届いたんだ」
嫁さんも子どもも、おばあさんもニコニコ顔です。
この話が村中に広まると
「私も願いをかなえてもらおう」
と神社にお参りし、帰りには掃除をする村人の姿が多く見られるようになりました。

4
その後、村人は月に二回。一日と十五日に境内を掃除するようになりました。今も神社掃除は地区の人に引き継がれています。
この話は平成十八年十月、神社の鳥居を建て替えたのを記念して、百年以上つづいている氏子婦人達の神社掃除の由来を記したものです。

(齊藤 弥四郎 著)

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