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でぃでっぽ(デェデッポ)

御宿町の昔ばなし

1
むかし むかし 海と山にかこまれた御宿に、大男がおった。せの高さはどのくらいあったものか。立ちあがると、へそから上は雲をつきやぶり、あたまはお天とうさまにとどくかとおもうほど大きな男だった。
御宿の人たちは、この大男をデェデッポとよんでいた。デェデッポはかた足を轟山にかけ、もうかたほうの足を浅間山にかけて、網代湾で顔をあらう。すると、くろい雲がかかったようにくらくなって、照りつけていたお天とうさまが見えなくなってしまう。かわりに、デェデッポのおなかが空いちめんにひろがる。ひろがった空に、暗く大きな穴が見える。デェデッポのおへそだ。
「見てみろ、デェデッポがかおをあらっている」
「暗くなって仕事もできなくなってしまった」
「ほんとうに こまるなあ・・・」
あたり一面暗くなる。仕事はできなくなるし、御宿の人たちはこまっていた。
一番こまるのは、浜の漁師たちだ。なにせ、網代湾にかた手をいれただけで波がたち、両手を入れると大嵐になるのだ。両手で海の水をすくって顔をあらおうとすると、ときには舟までいっしょにすくってしまう。漁師たちは
「デェデッポ、気をつけろ」
という。すると、デェデッポは
「わりい、わりい」
といって、左の手のひらに舟をのせ、右のゆびで舟をつまんで、浜のすなの上にゆっくりとおいた。漁師たちは
「デェデッポにはこまったものよ」
といいながらも、デェデッポが顔をあらい終わるのを待ってやった。顔からしたたりおちる水は大雨のようにおちる。舟にもふりかかる。まるで大雨だ。
顔をあらいおわったデェデッポは、やがて太陽にむかって顔をかわかす。顔のかわくころには、網代湾のなみがおさまる。そうすると、浜においた舟を指でちょいとつまんで、また海に返してやった。

2
デェデッポは、村の人に迷惑ばかりかけていたのではない。時には デェデッポのおかげで村の人が助かることもあった。なにが助かるって。そりゃ、なんといっても海がシケたときだ。舟で沖に出かけたとき、急にシケて海が荒れてくる。浜にかえろうと、けんめいに舟の櫓(ろ)をこぐ。しかし、つよい風と高波のために、舟はいっこうに進まない。それどころか、舟もろとも海の底に沈んでしまうことがいくどもあった。
ところがデェデッポが御宿に住むようになってからは、シケても舟の事故はなくなった。
海が荒れると
「デェデッポ助けてくれ」
とさけぶ。すると
「どれどれ どこだ」
「どこにいるんだよー」
といいながら、大きなからだを小さくかがめて、荒れた海をじっとながめる。そうして、かた手で荒海から舟をちょいとすくいあげ、浜べにはこんでくれた。こんなふうに、村の人とデェデッポはたがいに助け合いながら、くらしていた。

3
ところが、ある年の夏のことだった。その年は日でりがつづき、川の水も沼(ぬま)の水も少なかった。
「デェデッポ、おめえよ。水をもう少し大事に飲んでくれ」
「日照ということは、おらもわかっているだ。それで、おらもがまんしているだ。両手で飲んでいた川の水もかた手で飲んで、おらなりにがまんしているだ」
「かた手といっても、おめえのかた手はなん十人分の水の量だ。それで指一本で飲んでくれ」
「指一本で、どうやって水飲むだ」
「おめえの指は 川に入れただけで村人五人分の水がしたたれ落ちる。わりいいが、もう少しがまんしてくれといっているんだ」
「なに 指一本で・・・。そじゃあ、おれは死ねということか」
「そんなことはいってねえ。みんな 水にこまっているから、ほんの少しがまんしてくれっていっているんだ」
「がまんしてるでねえか」
「たのむからよおー。もうちょっと、がまんしてくれ」
「もう、これいじょうがまんなんねえ」
「・・・・」
村の人たちと デェデッポのいいあいは続いた。ついにデェデッポはカーッとなって
「それじゃ、もうたのまねえ。おれがこの村を出て行けばいいだろう。出て行けば・・・」
はきすてるようにいって、大多喜のほうにむかっていった。そうして、おこって、めちゃくちゃに足をふみならしてあばれた。それで、今も大多喜の山奥に、深い谷が多いのは、このときデェッポがあばれた足あとだそうだ。
その後、デェデッポは御宿にすがたをあらわさなくなった。うわさによると、東京湾に出て、富士山をひとまたぎにし、さらに日本海をまたいで中国にわたったとさ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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