• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

災いの話

災いの話

船を助けたアワビ

御宿町の昔ばなし

青森県下北郡大畑町は、むかしから漁港で名高いです。この町の大畑八幡宮(おおはたはちまんぐう)に、大きなアワビが社宝としてまつられています。なぜ、この神社の宝がアワビなのか。それにはこんなお話が伝えられています。

むかしむかし、いまから二〇〇年ほどむかしのことです。この大畑港から、魚やこんぶをたくさんつんだ船が、江戸に向かって出発しました。
天候にもめぐまれ、船は房州沖をゆっくり南下していました。海の天候は変わりやすい。晴れていた空は急に黒雲におおわれ、雨が降ってきたかと思うと風が吹き大嵐になってきました。船は木の葉のようにゆれ、波に流されてゆきました。
ガガー ガガー
ガガー ガガー
というにぶい音がして船底がけずられました。船乗りたちの表情は凍りつきました。つぎの瞬間、船底から海水があふれてきました。
「水だ。はやく、くみ出せ」
船頭の声に、みなヒシャクや容器をもって水をくみ出しました。しかし、海水はどんどん入ってきます。船はかたむき、今にも沈みそうです。
「船が沈んでしまう。もっと、早くくみ出せ」
船頭は怒鳴ります。船乗りの脳裏に、ふるさと大畑に残してきた妻や子のことがうかんできました。船頭は
「神様どうかお助けを。どうかお助けを」
と、となえています。船頭の、神様に祈る声が他の船乗りたちにも聞こえたのでしょうか。船の中では
「神様さま・・・。どうかお助けを」
と、全員が祈りました。声は房州の嵐の海にむなしく消えて行きます。
船はどんどん、しずみます。だれもが、このまま船といっしょにこの房州の海底にしずんでしまうと、かくごしたそのときでした。船の水が少しずつへっているではありませんか。
「水が入らなくなったぞ。さあ、急いでくみだそう」
ヨイショ、ヨイショ
ヨイショ、ヨイショ
みな、必死に水をくみだしました。水はくみ出され、船は嵐の中をさまよいました。
しばらくしてから、嵐はおさまり黒雲も去り、太陽が見えてきました。
「助かったぞ、助かったぞ・・・」
「神さまのおかげだ。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
と、かんしゃしました。
房州近くの港、御宿にたちよって、破れた船の帆をつくろうことにしました。御宿港に立ち寄って船底を調べてみました。すると、大きな大きなアワビが船底のこわれたところにピタリとすいついているではありませんか。
「アワビが、房州のアワビがわしらを守ってくれたのだ」
「命の恩人じゃ」
と、その大きな大きな御宿のアワビをふるさと青森県下北郡大畑町に持ち帰り、大畑八幡宮にまつりました。
御宿の沖には大きなアワビがむかしはたくさんすんでいたそうです。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん