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戦(いくさ)の話

戦(いくさ)の話

朽打塚

御宿町の昔ばなし

御宿町(おんじゅくまち)の高山田地区(たかやまだちく)につたわる話だ。
むかし むかし。夏も終わろうとしているころであった。野原で子どもたちが「戦(いくさ)ごっこ」をして遊んでいた。ふた手に別れ、木でつくった刀や弓で
エイヤー
ソレー カカレー
・・・・・・
大声を出して遊んでいた。
やがて、陽が西の山にかくれ、真っ赤な夕焼(ゆうや)けが、空一面に広がった。真っ赤な空に、真っ赤な雲がたなびいていた。美しい赤をとおりこして、不気味な赤い夕焼(ゆうや)けであった。
その時、林から太鼓(たいこ)の音が聞こえてきた。
ドンドンドン
ドンドンドン
・・・・・・
太鼓(たいこ)の音はリズミカルにひびき、大きな音となってどんどん近づいてきた。
ドンドンドン
ドンドンドン
・・・・・・
子どもたちは、あっけにとられ、その場に立ちすくんでいた。
しばらくすると
「木のかげにかくれろー」
年上の少年がさけんだ。太鼓(たいこ)の音と反対の林をめざして必死(ひっし)に走った。
木のかげに、身をかがめて息をころしていた。
すると、
ワーッ ワーッ
ワーッ ワーッ
・・・・・
と、いう声があがったかと思うと、鎧(よろい)・兜(かぶと)を身につけ、刀や槍(やり)、弓を持った武士(ぶし)の一団があらわれてきた。武士(ぶし)の一団はふた手に別れ、
「ええ、われこそは安房(あわ)の住人、里見(さとみ)の家臣(かしん)・・・」
「ええ、こしゃくな。われこそは上総(かずさ)の住人、万木(まんぎ)城の・・・」
・・・・・・
と、大声で怒鳴(どな)りあう。武士(ぶし)たちの背には幟(のぼり)がついていた。一方の団は里見(さとみ)氏の紋所(もんどころ)、もう一方は土岐(とき)氏の紋所(もんどころ)である。
両方の兵は入り乱れて合戦を始めた。怒鳴(どな)り声、陣(じん)太鼓(たいこ)の音、刀と刀、槍(やり)と槍(やり)のぶつかる音、弓矢が風をきってとぶ音、きずをおった武士(ぶし)の悲鳴。あたりは騒然(そうぜん)となった。子どもたちは、ワナワナふるえながら見ていた。おそろしさに、両手で顔をおおう子もいた。
やがて、たおれる兵がたくさん出てきた。草や木に血が雨のようにふりかかる。小さい子どもは恐怖(きょうふ)のあまり
「こわいよー、こわいよー」
ウェーン、ウェーンー
ウェーン、ウェーンー
泣きだした。年上の少年は、なく子の口をおさえ
「こわくない、こわくない・・・」
「泣かないで、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
と、なだめる。
そうこうしている間に、戦(いくさ)がうそのよう終わり、原っぱはもとのように静まりかえっていた。鎧(よろい)や兜(かぶと)を身につけた兵も、幟(のぼり)を背にした兵の姿もない。陣(じん)太鼓(たいこ)の音も兵の声もぴたりとやんだ。血にそまった草や木も、もと通り、一摘の血もついていない。そこには、色あせ朽ちはてた一本の弓矢が落ちていた。

子どもたちが目にした光景こそ、『房総(ぼうそう)志料(しりょう)』に出てくる里見(さとみ)氏と土岐(とき)氏の戦いだった。『房総(ぼうそう)志料(しりょう)』には「御宿村(おんじゅくむら)高(たか)山田(やまだ)区の山中に、朽打塚(くちうちづか)と言はれて、昔、里見(さとみ)、万木の古戦場だったと言はれるところがある」と出ている。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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