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災いの話

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千人塚

御宿町の昔ばなし

御宿町新町(しんまち)に、『千人塚(せんにんづか)』とよばれている、共同墓地があります。『千人塚』という地名のゆらいには、こんな話が語り伝えられています。

1
むかしむかし、元禄十六年(一七〇三)十一月二十二日のことでした。
一日の漁が終わり、漁師たちが網代(あじろ)の浜にもどってました。そうして、きょうの不思議な漁のようすを語りあっていました。
「きょうは大漁だ。」
「こんなに大漁はめずらしい。」
「魚が群れになって舟に突進してくるんだ。それもすごい勢いでな・・・」
「アミを投げいれたかと思うと、たちまち魚でいっぱいになる」
みんな、大漁を喜んでいました。
「わしはこの網代の海で六十年も漁をしているがこんなことは初めてじゃ・・・」
不思議な現象に首をかしげる人もいました。
やがて、西の山に真っ赤な夕日が沈み、どの家も、夕げのしたくにとりかかりました。はずんだ明るい声が、家々から聞こえていました。秋の終わりをつげる色あせた野菊の花が、風にゆれていました。平和な、網代の浜の、秋の夕ぐれでした。
コーコーコッコッコッコッコー
とつぜん、ニワトリが鳴きだしたかとおもうと、すごい勢いで庭を行ったり来たりしはじめました。
ウオーウオー、ワンワンワンワン・・・・ウオーウオー
犬も、鳴き始めました。あたりが、そうぜんとしたかとおもうと
グラグラグラグラー
突然、まさに突然、大地がゆれだしました。家の中では、茶わんやなべが落ち、土間の水がめがたおれてわれました。夕食どころではありません。どの家からも
「おお、びっくりしたー。」
「地震だー、地震だー、地の神様がおこったぞー」
「なまずがあばれだしたぞー」
さけびながら人々が飛び出してきました。
・・・・ゆれは、やみました。屋根が落ち、大きくかたむいた家も少なくありません。庭の木もかたむています。恐怖のあまり、乳飲み子は火がついったようにギャーギャー泣いています。その後も、何度も小さいゆれ、大きなゆれをくりかえし、多くの家がかたむきこわれました。

2
結局、一晩中眠ることができず、朝をむかえました。東の海に紫の雲が、ぶきみにたなびいています。
「舟の被害はねえだろうか・・・」
漁師たちが、浜に舟を見に行ったときでした。紫色の雲のかなたから、大きな波が、ゴーゴーうなりをたてて、せまってくるではありませんか。
「うあー、お化けだー。」
「波のおばけだー」
「にげろ。にげろ。波のばけもんだー」
さけびながら家にむかって走りました。波の速さはすさまじく、どんどん近づいてきます。あっという間に、砂浜に乗り上げ、舟をのみこみました。海女の小屋も、ほしてあった網も漁具も、すべて波にのみこまれていきます。
「たすけてくれー、たすけてくれー」
男も女も、老人も若者もわめき走ります。しかし、波はすべてのものをのみこんでいきます。
波は浜の小屋をのみこみ、どんどんどんどん陸を占領していきました。
「たすけて、たすけて・・・」
「おっかあー、おっかあー・・・おとうーおとうー」
助けを求める声、父母を呼ぶ声が波間に消えていきました。
川を上ってきた波は、橋をのみこみ、田畑をのみこみ人家をのみこみます。まるで竜がのたうちまわるように進み地獄のような光景です。
波の勢いが弱まるとしだいにひいてゆきました。波のひいたあとは、無残にこわれた家、根こそぎ引き抜かれた大木、人や犬・猫の死骸があちこちに横たわっています。
数日後、網代の浜には溺死した人体がいく日にもわたって流れてきました。

3
この津波でなくなった人達をあわれに思い、浅間山のふもとになきがらをほうむりました。やがて、だれいうともなくこの地を『千人塚』と呼ぶようになりました。塚はその後、現在の新町の共同墓地に移されました。この共同墓地を以前のように『千人塚』と今も呼ばれています。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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