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神様・仏様の話

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おっぱいイチョウ

勝浦市の昔ばなし

勝浦の朝市通りに、高照寺(こうしようじ)というお寺があります。このお寺の境内(けいだい)に奇妙な形をしたイチョウの大木があります。枝がいくえもひろがり、この枝からおっぱいの形をした枝が地面に向かってのびています。おっぱいの形をした枝はいっぱい垂れ下がっています。どの枝も白い乳が出てきそうなほどそれはそれは豊満なおっぱいの形をしています。このイチョウの木にこんな話がいいつたえられています。

1
むかしむかしのことです。その年は天候不順で、雨の少ないジリジリ照りつける暑い暑い夏かとおもえば、秋には何度も台風がやってきては大雨がふり、大洪水となりました。そのため収穫の秋になっても、ひとつぶの米もとれませんでした。海もシケつづきで、海の幸もわずかしかとれませんでした。
高照寺の近くに住む十兵衛(じゆうべえ)の家も、食べるものといえば木の実と、浜に打ち寄せるわずかばかりの海草だけでした。十兵衛と妻のおよねは、来る日も来る日もお天とう様を見上げ
「ああ、今日もお天とう様が・・・・早く雨がふらんかなあ」
と、なげいていました。
およねはやせおとろえ、とうとうおっぱいも出なくなってしまいました。納屋にたくわえておいた米でカユをつくって食べさせていましたが、米も底をつきひとつぶの米もありません。おなかをすかした乳飲(ちの)み子は、か細い声で泣きつづけました。
こまりはてて、近くの家に
「すみません、少しばかりお米をわけてください」
とたのみに行きました。でも、わけてもらえませんでした。どの家も人にかすほどの米がないのです。
やがて乳飲み子は、泣き声もしだいしだいに弱くなり、泣く力もなくなってきました。まるまる太ってかわいらしかった顔も、見るかげもなくやせてきました。

2
虫の鳴く、月夜のことでした。時々、思いだしたかのようにか細い声で鳴く乳飲み子をだいて、およねは裏の出口から外に出ました。乳飲み子と対照的に、秋の虫は高い声で鳴いています。
「満足におっぱいもやれねえ、おっかあをゆるしてくれや・・・こんなひもじい思いをするくらいなら、生きていても・・・」
乳飲み子にほおずりしながら、海に向かいました。
高照寺の門の所にさしかかった時です。泣きながら海に向うおよねをみつけた和尚さんは声をかけました。
「こんな夜ふけにどちらへ・・・」
およねには聞こえません。和尚さんに肩をたたかれたおよねは、やっと和尚さんに気づきました。
「どうされました・・・」
「悲しいことでもあるのですか」
「この子がふびんでなりません。わたしの乳がでないので、このように泣く声もでなくなってしまいました。このままではこの子がかわいそうで、いっそのこと二人で海に・・・」
「ふびんなことを。・・・私が仏様にお祈りしましょう」
和尚さんは、乳飲み子をだいたおよねを本堂にあげてやり、お教をあげました。
すると不思議なことに、およねの胸はふくらんできたような感じになってきました。およねが乳飲み子の口におっぱいを含ませてやると、ごくごく飲むではありませんか。白いおっぱいが乳飲み子の口もとからぽたぽたあふれています。
「お、おっぱいが・・・。おっぱいがでる。・・・おっぱいが」
およねは、涙をながしています。乳飲み子は夢中で飲みます。やがて、満足した乳飲み子はスヤスヤ寝入ってしまいました。

3
高照寺の和尚さんのお教で、おっぱいが出るようになったおよねさんの話は村中に広まり、評判になりました。それをきいて、おっぱいが出なくてこまっている女たちが高照寺にやって来て、和尚さんにお経をあげてもらうようになりました。するとふしぎなことには、おっぱいが重くなり乳がでるようになりました。
やがて和尚さんが亡くなりました。檀家(だんか)の人々が和尚さんの墓のそばに一本のいちょうの木を植えました。イチョウの木はあっというまに大きくなり、枝におっぱいの形をした枝をたくさんつけました。
そうしてやがて、だれ言うともなく、このおっぱいの形をした枝にさわると乳の出がよくなるとうわさされるようになりました。
今も、おっぱいの出がわるい女の人がこのおっぱいの枝にさわると、おっぱいが豊かに出るといわれています。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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