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田植えと殿様

いすみ市の昔ばなし

1
むかしむかしのことだ。万木城(まんぎじょう)に殿様(とのさま)がいたころの話だ。万木の殿様(とのさま)というと、土岐(とき)三代が立派な殿様(とのさま)で有名(ゆうめい)だが、その時代ではない。土岐(とき)の殿様(とのさま)の前か後かわからないが、少し脳味噌(のうみそ)のたりない殿様(とのさま)の時代だ。殿様(とのさま)につかえる人たちは、国を治める殿様(とのさま)になるのだからと、小さいときから一生懸命に勉強させようとした。しかし殿様(とのさま)は
「わしは、殿様(とのさま)だ。勉強なんか役にたたぬ」
と、言って遊んでばかりいた。大(おお)殿様(とのさま)(お父さん)もお母さんも、そんな殿様(とのさま)を見て、こう言った。
「いつか、勉強したくなるときがくるだろう。その時まで待てばいい。そんなに、勉強、勉強と言わなくてもよいぞ」
「それに息子(むすこ)は殿様(とのさま)だ。暮(く)らしにはこまらぬ」
そこで、家来たちは殿様を遊ばせてばかりいた。
やがて大殿様がなくなったが、子どもの時と同じで、ちっとも勉強しようとしない。そこで、時々まわりの人をヒヤヒヤさせ、あわてさせた。
ある春の日のことだ。
「いよいよ、田植(たう)えの季節だね」
「田五助(たごすけ)どんが今年も一番はやく田植(たう)えをしたらしい」
「田五助(たごすけ)の娘(むすめ)の苗植えは、速(はや)いからなあ」
「いや、いや、五郎兵衛(ごろべえ)の娘も速(はや)いぞ」
と、家来たちが田植(たう)えの話をしていた。
それを聞いていた殿様(とのさま)は
「田植(たう)えとは、なんじゃ。おもしろいのか」
と、家来にたずねた。
「は、はい。田植(たう)えとは、その、それ、何ともうしますか・・・・田植(たう)えです」
「その、田植(たう)えとやらが、なんじゃと聞いておるのだ。それでは説明(せつめい)にならん」
「はい、田んぼに苗(なえ)を植えるのです」
「田んぼとはなんじゃ」
「苗とはなんじゃ」
「・・・・・・」
家来たちは困ってしまった。すると殿様(とのさま)は
「それじゃあ、田植(たう)えとやらを見物に行こう」
ということになった。
よく日、春の陽(ひ)がさんさんと輝(かがや)き、田植(たう)え日よりであった。万木の山から里を見下ろすと、代(しろ)かきされた田んぼに大勢(おおぜい)の人が出て田植(たう)えをしていた。「殿、あれが田植(たう)えです」
「ほう、にぎやかだのう。あんなに大勢(おおぜい)の人がくりだすとは、やっぱりおもしろいのだろう。里(さと)までおりて近くで見たいものだ」

2
田んぼでは五、六人の人がならんで働いていた。額(ひたい)に汗を流しながら競うように一生懸命(いっしょうけんめい)に働いていた。家来(けらい)たちは
「やっぱり田五助(たごすけ)どんの娘(むすめ)が一番かのう」
「いや、五郎兵衛(ごろうべえ)の娘だろう」
と、田植(たう)えの上手な者はだれだろうと話していた。
そのうち、殿様(とのさま)の一行に気づいた村人は手を休め
「これはこれはお殿様(とのさま)、お見まわりありがとうございます」
と、あいさつした。なにを思ったか殿様(とのさま)は
「みなのものありがとう。それにしてもあんたは田植(たう)えがうまいのう。ほうびをつかわす」
と、田植(たう)えの一番おそい者を指(ゆび)さしていうではないか。家来たちは大あわて、ほうびをもらった百姓(ひゃくしょう)もびっくりした。
ところで、殿様(とのさま)はなぜ田植(たう)えの一番おそい人を一番速(はや)いとかんちがいしたかわかりますか。そう、殿様(とのさま)は田植(たう)えが後ずさりしながらするということをしらなかったのです。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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