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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

おさんきつね

いすみ市の昔ばなし

1
むかし、むかしのことでした。太東岬のちかくに「おさん」という女のきつねが すんでいました。おさんは、人を化かすのがじょうずで、太東岬を通る人たちに いたずらをして よろこんでいました。
ある夕方、漁師小屋で浜の若者があつまり、酒もりをしていました。そのとき、おさんきつのはなしがでてきました。
「あのおさんはたいしたきつねだ。おら、なんども化かされただ」
「おめいもか。おらあも ばかされただ・・・」
「おれなんかなあ、まんじゅうだとおもってくったらきつねのふんだった。気がついたら くせいといったらありゃしね」
「おらあもだ、冬の寒い日だった。きれいな女が 酒ごちそうするというから、ついて行って ごちそうになったら、しょんべんだった」
「はは・・・きつねなんか、だまされて、ばかなやつらだ」
「ばかだと・・」
「そうだ、ばかだよ。きつねになんか だまされるなんて」
「それなら、おめい、おさんきつね つかまえてこい」
「ああ、いいとも。いいとも。つかまえてくべえ」
力じまんの若者は、おさんきつねを つかまえてくることになりました。ほかの若者たちも
(よせばいいのに。化かされるにきまっているよ)
と、おもって、こっそりわらっていました。
力じまんの若者は
「これから行って すぐにでもつかまえてやるさ」
というと、浜の小屋を出て 太東岬にむかいました。

2
なまあたたかい風が 海からふきあげ、道ばたの草を 時々ゆらします。
そのたびに、おさんきつねが 出たかなと、みぶるいしました。峠にさしかかり、道がほそくなってきたときです。草むらから、金色をしたきつねが出て ふらふら歩いています。
「ははあ、おさんきつねだな。さっそく出なすったな」
と、おもいながら、化かされないようにと 注意ぶかくきつねのうしろをついていきました。すると、きつねは 一まいの葉をちょいと頭にのせたかと思うと 若い女にばけるではありませんか。
「これがおさんきつねだな」
とおもいながら、ついてゆきました。しばらくゆくと、道ばたにあった小さな石のじぞうさんを だきあげました。
♪ ♪  ねんねんころりよ、おころりよ・・・
ぼうやはよいこだ ねんねしな
・・・・・     ♪ ♪
じぞうさんをだきかかえ、子もり歌をうたったかとおもうと、じぞうさんは赤んぼうにかわっていました。目をこすりながら
「おお、うわさにたがわず、なかなかやるきつねだな。こんどは おれが化かされるのか。化かされてなならないぞ」
と、思いながら あとをついて行きました。きつねは すこしも気がつかないようすで、しばらく行って、一けんの家にはいっていきました。

3
若者が 家の中をのぞいてみると、じいさまとばあさまが 赤んぼうをだいて 話をしているではありませんか。
「じいさまと ばあさまがだまされている。たすけてやらなくては」
若者は そう思って、家の中に はいっていくと
「じいさん、ばあさん。化かされてはなりませんよ。赤んぼうは石のじぞうさんです」
と いいました。けれども
「なんだ、おまえは 気でもくるったのか」
「石のじぞうさんだなんて、ばかなこというじゃありません」
と いって、若者のいうことを ききいれません。
「おれのいうことが 信じられないのか」
「・・・・ああ、しんじられないね」
「それなら、その赤んぼうを そこのにえたっているかまの中に いれてみるがよい。そうすれば、赤んぼうは すぐに 石のじぞうさんにかわるから・・・。おあら、この女のあとをずっと つけてきたんだ。赤んぼうは 峠のじぞうさんだ」
「ばかをいえ、こんなかわいい赤んぼうを かまになんかいれられるか」
「信じてくだされ、その赤んぼうは じぞうさまだ」
「・・・・」
しばらく いいあいがつづいたが、じいさまは、
「おまえが それほどにいうなら、かまに いれてみよう」
と、おばあさんが とめるのもきかないで、にえたぎるかまの中に 赤んぼうをいれました。
赤んぼうは、大声をあげて なきさけぶだけで、いっこうに じぞうさまにはなりません。若者は こわくなって、わなわなふるえだし
「とんでもないことをしでかした」
「ああ、ゆるしてくだされ」
「ゆるしてくだされ」
「・・・・」
と、ただただ、なくばかりです。

4
じいさまは、かんかんに おこって
「このやろう。なんの うらみがあって、こんなかわいい赤んぼうを ころしたのだ」
と どなります。おばあさんも おじいさんも
「なんということをしてくれたのだ」
と いって なきつづけるだけです。
「ころしたんだから、おぶぎょうさまへうったえてやる。さあ立て」
地べたに すわりこんでいる若者を おこそうとしますが、若者は
「ゆるしてくだされ。ゆるしてくだされ・・・。どんな むくいもおうけしますので、ぶぎょうしょへは つれてゆかないでください・・・」
と、ひたいを地面につけて あやまりました。
「どんなむくいもおうけするじゃと」
「はい。どんなことでも」
「赤んぼうは 死んでしまった。もう 生きかえらない。この 赤んぼうのために おいのりをたのむ。寺にはいって 赤んぼうが じょうぶつできるように、いっしょうけんめい ねんぶつをとなえてくれ」
「はい。頭をまるめて 寺にはいり 赤んぼうのためにおいのりをいたします。」
「では、すぐに頭をまるめて 寺にいこう」
若者は、その場でおじいさんに頭をまるめてもらい 近くの寺に行き、さっそく もくぎょをたたき、赤んぼうのために いっしょうけんめいねんぶつをとなえました。

5
しばらくすると
「おーい。そこでなにをしているのだ」
と 声がしました。目をあけてみると、びっくり。寺と思っていたのに、潮風のふく 太東岬の草はらでした。
若者が頭をさわってみると、すっかりそられて つるつるになっていました。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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