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不思議な話

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行元寺の龍鈴

いすみ市の昔ばなし

夷隅町、荻原に行元寺という天台宗のお寺があります。現在は夷隅町荻原にありますが、その昔は大多喜町伊藤の大山にありました。 この行元寺に『龍鈴』という高さ二三・五センチほどの秘宝が伝えられています。慈覚大師という偉い和尚さんが中国留学の帰りに持って帰ったものだそうです。『龍鈴』は、『雨乞い』に使われていました。
慶長九年六月、夷隅地方一帯が干ばつに襲われたとき、大多喜城主本多忠朝はこの『龍鈴』に雨乞いの祈願をしました。忠朝の祈願は成就し、農民たちが助かったという記録も残っています。歴史的にも有名なこの「龍鈴」のお話です。
昔 むかしのことです。大多喜城が戦でせめられました。この時、伊東の大山にあった行元寺も火を放され、焼け落ちてしまいました。寺の秘宝『龍鈴』も持ち出される余裕さえなく、寺と一緒に姿を消してしまいました。それでも、焼け跡から出てくるのでななかろうかと、いく日もいく日も焼け跡が探されました。しかし結局、みつかりませんでした。行元寺の和尚さんは焼け残った庵で毎日のお勤めだけはくりかえしていました。
焼け落ちてから半年、寺の境内にはまたあじさいの花の咲く季節になりました。寺の修復も少しずつ進んでいました。そんな春の夜のことでした。境内で人の声がします。今時分いったいだれだろうと、外に出てみました。あじさいの花が先ほどまでの雨にあらわれとてもきれいな夜でした。人の姿は見えません。しかし人の声は聞こえてきます。声のする方に近づくと、
「寺に帰りたい、寺に帰りたい。」
と、言っているようです。いったいどこから聞こえてくるのだろうと、声をたよりに進んで行きますと、土の中から聞こえてくるではありませんか。確かに
「寺に帰りたい、寺に帰りたい。」
と、はっきりと聞こえてきます。
和尚さんはすぐ手でほってみました。すると、寺の秘宝であった『龍鈴』が出てきたのです。和尚さんは、
「これはこれは、長い間さがしていた龍鈴。・・・こんな所にあったのか。さぞやさみしかったであろう。」
と、井戸の水で洗って泥をとり、きれいにふいてやりました。すると、パタリと龍鈴の音が止みました。

この龍鈴は現在、県の指定文化財になっております。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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