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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

平塚の紋三郎キツネ

いすみ市の昔ばなし

この話は岬町中原に昔から伝わっている話だ。今の中原あたりをむかしは平塚とよんでいた。
むかし、むかし、寒い冬の日であった。日はとっぷり暮れていた。平塚の渡し守のところへ品の良いおじいさんが、年頃の美しい娘を一人違れてたずねてきてた。
「旅のものでございます。日が暮れてこまっていますだ。どうか、一晩、とめてくだせえ」
と、一夜の宿をたのむ老人と娘がいました。家もそまつでせまい。よぶんなふとんがあるわけでもない。渡し守はこまったが、暗くなっているのでことわるわけにもいかない。
「こんな家でよかったら、とまってくだせえ」
二人を家に招き入れ、タ食を与え親切にもてなしとめてやった。
よく朝、老人はしんこくな顔をしてきりだした。
「わけはきかねえでくだせえ、じつは、この娘をもらってもらえねえか」
というではないか。渡し守はおどろいて
「このとおり、わしはびんぼうだ。もう一人養うことはできねえ」
とことわったが、老人は
「おねがいだ。あんたは心やさしいお方だ。どうか、娘をもらってくうろ」
と、なんどもいう。しかたなく、渡し守は娘をもらうことにした。
老人は感謝し厚く礼を述べ、いづこともなく立去っていった。
渡し守は娘をせがれの嫁にした。娘は気だてはやさしくよく働き、夫と親に仕えた。人もうらやむほど、夫婦仲はよく平和な家庭てあった。
「びんぼうもんの渡し守に、あんなよめごをみつけたんだっぺ」
「働き者のよめごにびっくりした。きりょうもいいし」
村のものがあつまると、その話でもちきりだ。
まもなく若夫婦に男の子が生まれた。この子が五歳のとき、ある田植どきに家中田植に出かけた。嫁は家に残り家事に従事し、座敷をほうきではいていた。この時遊びに行っていた子供が帰ってきた。子供は母親の着物からシッポがでていて、シッポをほうきがわりにして座敷をはいているのを見てしまった。
「おっか。おっかの着物からシッポがでている」
子どもがいうと、母親は、大きなキツネに身をかえた。
『私の正体を見れれたからにはこの家にいるわけにはいかなえ。私は笠間の紋三郎キツネだ。私に会いたくなったら笠間の稲荷様にたずねてきなさい。それから、今夜中に苗を田の近くに出しておいてください』といって姿を消してしまった。
子供は父親にこのことを話した。
「たとえ、すがたがキツネであっても、おらあにとっちゃ、かけがえのねえ女房だ。こどもにとってもまたとない母親だ。おっかあの言うとおりにしべえ」
と、夜のうちに田植する苗を田の近場に出しておいた。
よく朝、老人と若者と子どもが田へ行ってみた。すると全部の苗がきれいに植えられてあった。この年は長雨がつづき、まれにみる不作てあった。どこの家の稲も実らなかった。ところが渡し守の家だけは稲が実り大豊作となった。そして、渡し守の家は栄えるようになった。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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つか坊と姉ちゃん