• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

欲ばり者の話

欲ばり者の話

みょうが宿

いすみ市の昔ばなし

1
むかしむかしのことだ。
長者の宿に、高価な着物を着た、体格のいい男が大きな荷物と小さな荷物を持ってやって来た。宿の玄関に来ると
「今晩泊めてもらいたいが、部屋はあるかね」
と、胸をはってえらそうに聞いた。宿の主人は
「あります、あります。一番いい部屋があいています」
と、ていちょうに部屋に案内した。
部屋からもどった主人は(あの方は金持ちにちがいない。どこかの旦那様だろう。あの荷物には金がたくさん入っているにちがいない。そうじゃ、金持ちにちがいない)と思った。
「みんな、いいか。このお客さんにはたくさんミョウガを食べさせろ。そしたら、金の入った荷物を忘れるかもしれない。そうしたらおまえさん達にも分けてやる」
と言った。

2
調理場の板前さんはミョウガのみそ汁、刺身のつま、ミョウガの酢もの、ミョウガの天ぷら、ミョウガの漬け物・・・とたくさんのミョウガ料理をだした。
「このあたりは、ミョウガが名物で、うまいミョウガがたくさんとれます」
「そうですか。わしはミョウガが大好物です。これはうまい、これは天下一品だ」
全部の料理をたいらげ、みそ汁はおかわりまでした。
主人は大いに喜び、板前さんに
「あのお方はミョウガが大好物だ。明日の朝食もミョウガ料理をたくさん出してくれ」
とたのんだ。そのため翌朝のお膳にも、たくさんのミョウガ料理が盛られていた。
朝食がおわり、お客さんが旅籠を出立する時になった。主人をはじめ、板前さんも仲居さんも
「また、この街道をお通りの際は、ご利用ください」
と深々と頭をたれて見送った。
「ほんとうに、良い旅籠だった。また、たのむ」
と旅立った。

3
客の手には昨日の荷物がない。主人はミョウガが効いたのだ、しめしめと思いながら見送った。みんなが見送った後、番頭さんが大声でかけてきた。
「旦那さん、旦那さん。たいへんです。ミョウガが効き過ぎました。お客さんが忘れ物です」
「そうか、そうか忘れたか?」
「金が入っていたか?」
「いや、荷物の忘れ物もありますが、宿賃を支払うのをわすれて行きました」
「ああ、効き過ぎたか。・・・でも荷物には宿代以上の金が入っているにちがいない」
そう言いながら荷物をあけた。主人も番頭も、仲居もみな大金が出てくるのをまった。そして、荷物を開けてみた。すると、荷物の中は空っぽだったとさ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん