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不思議な話

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御禁止川の鯉(おとめがわ の こい)

大多喜町の昔ばなし

大多喜町を夷隅川が流れ、その一部を「御禁止川」と書いて「おとめがわ」と読む川があります。
江戸時代参勤交代の際には、ここの鯉をヒノキのたらいに入れて、生きたまま将軍家へ献上したそうです。
そんな御禁止川の話です。
むかしむかし、大多喜に大殿さまがいらしゃったころのことです。
とてもらんぼう者の殿さまで、長い刀を腰に差して家来を従えて
「そこのけそこのけ、お殿が通る。そこのけそこのけ、虫けらどもよ」
と叫びながら、城下を歩きまわって町民を怖がらせていました。
大多喜のお城の下あたりと総元の三又あたりの夷隅川を御禁止川とよんで、魚を捕ることを禁止していました。
大殿さまが言いました。
「御禁止川にすんでいる大鯉はだれも手出しをしない」
そこでさっそく、大殿は庄屋(しょうや)を呼び寄せて、
「その鯉を一口食ってみたいから、生け捕るように」
と、言いつけました。

びっくりした庄屋は、
「それだけは、ごかんべんを。御禁止川の鯉を捕まえたりしたら、たたりがあります」
と、断ったのですが、大殿さまは許しません。
「わしの命がきけぬと申すのか? もし、生け捕りしなければ、代わりにお前の腹を切りさくぞよ。いいな」
そこで庄屋はしかたなく、鯉を生け捕りにする準備をはじめました。
鯉を生け捕りにする前の晩のことです。
庄屋の家に美しい娘がやってきて
「明日、御禁止川に網を入れるそうですが、やめていただけないでしょうか?」
と、言いました。
それを聞いた庄屋が、
「もちろんだ。御禁川の鯉を捕ることなどやめにしたい。でも明日は大殿さまがじきじきにここへやって来るので、いまさら止(や)めるわけにはいかんのだ」
と、言いいました。
娘は、哀しそうにうつむいて
「・・・そうですか。止めることはできませんか」
と、言いました。心やさしい庄屋は
「そんな哀しい顔しないでくだされ。それ草もちでも食べなされ」
と草餅を出しました。
「こんなうまいもの初めてたべました。ありがとうございました」
と礼を言って帰って行きました。
さて、翌日の朝。
大殿さまの前で御禁止川に網を入れていると、大きいのやら小さいのやらたくさんの鯉がかかりました。その中で、ひときわ大きな鯉がいました。
「こりゃ、御禁止川の主(ぬし)にちがいない」
人々は言い合いました。
さっそく腹を切り開いたところ、中から草もちが出てきたのです。
これを見た庄屋はびっくりして、
「そうか、ゆうべ家へ来たあの娘は、御禁止川の主(ぬし)の化身だったのか」
と昨日の話をしました。
それを聞いた大殿さまも、さすがに鯉があわれに思えて、
「申し訳ないことをした。鯉料理を食うのは、やめにしよう」
と、その鯉をうめて、その上に松の木を植えました。
松は大きな立派な松に育ちましたが、やがて枯れ、今となってはどこにあったものやら松の立っていた場所も定かでありません。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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